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クリエイターにこそ読んでほしい漫画『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』

クリエイターにこそ読んでほしい漫画『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』

クリエイターにこそ読んでほしい漫画、第四弾! 今回ご紹介させていただくのは、週刊ヤングマガジンで絶賛連載中の『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』(講談社)です。

作者のハロルド作石は、『ストッパー毒島』『BECK』『RiN』といった数々の人気作を手がけておりご存じの方も多いことでしょう。

本作『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』はハロルド氏の最新作にあたり、誰もが知る伝説の作家 ウィリアム・シェイクスピアの風変わりな人生を描いた歴史物語となっています。2017年に1巻が刊行され、4月5日現在8巻まで発売されております。

なぜエレファントストーンが演劇・作家の漫画を取り上げるのか、には理由があります。まずはあらすじを見ていきましょう。

あらすじと登場人物

リバプールから演劇の都ロンドンに上京したランス・カーター(=シェイクスピア)と元司祭であり博識な使用人のミル、「黒の女神」ともいわれる神がかりな詩才を持つ少女リーの一行は、ジョン・クーム(シェイクスピアの幼馴染)と再会。生活の拠点を大都会に移し、家族のようにみんなで生活しながら「シェイクスピアの劇作家としての成功」という共通の目標のため、一丸となって奮闘する。

ランス・カーター(ウィリアム・シェイクスピア)

地元権力者からの理不尽な仕打ちにあい、故郷を出奔。名をシェイクスピアに改め、富と権力、自由を求め劇作家としての大成を夢みる。

ジョン・クーム(埋め込み内、左のコマの金髪)

財政面で一行を支える辣腕の商売人。シェイクスピアの幼馴染であり、彼の成功のためなら手段をいとわない無二の親友でもある。本名は、ワース・ヒューズ。

リー

予知能力を持つために周囲の者から迫害され、命からがら故郷を脱出。川に流されているところをシェイクスピアに拾われ、それ以降生活を共にする。

神がかりな詩才の持ち主で、シェイクスピアに大きなインスピレーションを与える「ミューズ」のような存在でもある。

ミル(左のコマのおじさん)

家事面でシェイクスピア一行を支える使用人。その料理の腕前は一級品で、学識の高さも折り紙付き。もとは、将来を嘱望されるカトリックの司祭であった。プロテスタントによる弾圧から逃れているところをシェイクスピア一行に助けられ、同行するようになる。本名は、トマス・ラドクリフ。

7人のシェイクスピアのここが魅力!

「天才ではなく、プロデューサーのような人物として描かれるシェイクスピア」

本作の最大の魅力であり、その他のシェイクスピアを描いた作品と大きく異なっているところは、人類史上最大の作家ともいわれるウイリアム・シェイクスピアが、まったくというほどその天才性を発揮しないところです。

というのも、『7人のシェイクスピア  NON SANZ DROICT』において、シェイクスピア劇は、そのタイトルの通り7人のチームによる合作ともいえる形で産み出されているのです。

過去の戯曲やイングランドやスコットランドの歴史書を徹底的に研究することで物語を創作していくランス(シェイクスピア)の姿は、「0から1を創造する」「天才的な閃きによってオリジナリティを生み出す」といった、私たちが思い描く従来の天才像とは大きくかけ離れたものです。もっといえば、“凡才”として描かれています。

映像においてもこうした点は共通で、いうなればシェイクスピアが住む社会における映像作品というものが一人でできるということはまれでしょう。なぜならば、資金集め、脚本、演出、衣装、現代でいえばそこにさらに撮影、照明……といったものが追加されますが、チームとして動くというのが普通なはずです。

彼は劇の土台となる物語こそ作りますが、作品のネタ元を提供するもの、天才的な詩を紡ぐもの、聖書や神話の知識を監修するもの、見せ場のアイデアを閃くもの、舞台音楽をつくるもの、斬新な大道具をつくるもの、と特別な能力を持つものが、それぞれ別個に存在しています。

そうした皆のアイデアを巧みに掬いあげながら、作品を一つのものにまとめていくランスの仕事ぶりは、現代でいうとアーティストというより映像ディレクター、編集長、ロックバンドのフロントマンのようでもあり、腕が立つ職人気質の「プロデューサー」という言葉が一番しっくりくるようにも見えます。

もちろん、漫画に描かれたシェイクスピア像と史実のシェイクスピアが同一のものとは限りませんが、「あの歴史上最高ともいわれる天才作家がグループで創作活動をしていたかもしれない」という可能性は、一人で作品の全てを抱え込こむことで苦悩しがちな現代のクリエイターにとって、大きな慰みになるのではないでしょうか。

本作『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』には、その前日譚もあります。ビッグコミックスピリッツにて2010年から2011年まで連載されていた『7人のシェイクスピア』(小学館)です。いうなれば、同じ毎週月曜日に発売される漫画雑誌に“禁断の移籍”をしたという漫画でもあります。あわせて手に取っていただけると光栄です。

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この記事を書いた人

ZOOREL編集部/コスモス武田
慶應義塾大学卒。大学時代から文学や映画に傾倒。缶チューハイとモツ煮込みが大好き。映画とマンガと音楽が至福のツマミ。

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