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夕方からメディアを学ぶ、「東京大学大学院情報学環教育部」って知ってる?

夕方からメディアを学ぶ、「東京大学大学院情報学環教育部」って知ってる?

東京大学に東京大学大学院情報学環教育部という組織があるのをご存じだろうか?

公式ホームページから引用すると

情報学環教育部は、情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人々のために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたっておこなう、ユニークな教育組織です。

学部、研究科という「タテ糸」で成り立つ東京大学のなかに、情報というキーワードをめぐる教育研究を「ヨコ糸」で縫い合わせてできた情報学環。教育部は、その情報学環という斬新的な東大の組織の特性を活かした、魅力的な学習の場となっています。

http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/education/courses/undergradより引用

とある。一言でいえば「情報」というキーワードをもとに大学の専攻の垣根を超えて学ぼうという場だ。OB・OGには読売新聞でナベツネの異名をとった「渡邉恒雄」氏、アナウンサーの草野仁氏、お笑い芸人のたかまつなな氏など幅広い。

かつて1929年に「新聞研究室」という名前でスタートしたが、時代に合わせて名前と名称が変化している。ZOORELで取り上げる意味もそこにある。マスメディア研究というと一般的には「ジャーナリズム」や「メディア論」を思い浮かべるが、インターネットが当たり前の時代それだけではなく「動画や映像づくり」も「テレビ」も「広告」もここでは学べるからだ。大学内の授業という形で「映像を作ったり」「過去のテレビなどのメディア」を偉大な先人たちから学べる場がいかに貴重かは想像にたやすいだろう。

実はこの私、実際に受験をして合格をしたので、今回は実際に受けてみての感想も含めてこの東京大学が誇る教育機関について説明しよう。

歴史

大学院という名前はついているが修士号がもらえるわけではない。付属の研究施設で立場は「教育部研究生」となる。ただし、大学の通常の研究生システムと違うのは入学と修了がきちんとあり、所定の単位をとり卒業をすれば「修了」ということになる。

授業内容

授業内容は社会学の中のメディア論(マクルーハンなど)のようなアカデミックなものから、映像の作り方、ドキュメンタリーの作成をしてコンペティションにトライするようなもの、広告、テレビ、ビッグデータ、デジタルアーカイブなどWebからテレビまで「メディア」と名のつくもの全てが幅広く学べるようになっている。

そのため、先生もテレビで活躍した方、広告代理店のクリエイターから大学教授まで幅が広い。とはいえ、専門的な知識を最初から求めるというよりは、ある程度広く大学の学部レベルのものが学べるといった趣旨で、例えば映像が最初から作る技術がなくても問題はないようだ。

実際に第39回「地方の時代」映像祭2019(主催:吹田市、関西大学、日本放送協会、日本民間放送連盟、日本ケーブルテレビ連盟)では生徒の作品が優秀賞を受賞をしている。公園にあるホームレスなどが寝ることができないように加工された「排除ベンチ」をテーマにした作品で、映像の中身は見ることができないのでわからないがテーマだけを見ても社会性や鋭さを感じることができる。

授業は基本的に夕方から行われることが多い。2年間で24単位をとれば修了となるので週に2、3日、平均して1、2コマずつ受けるというのが一般的なようだ。

また、授業とは別にワークショップも存在する。例えば昨年11月に行われたのは記録映画アーカイブ・プロジェクト 第13回ミニワークショップ 「PRする映画〜電通映画社フィルムアーカイブから〜」。つまり電通映画社の作品をアーカイブ化し、PR映画やテレビCMなどから何本かを上映したもの。こちらは一般にも開放されており当日無料で入ることができた。

生徒

このようにメディアやマスコミを対象に、学ぶ組織というのは他大学にも存在する。私の出身である慶應義塾大学でも「メディア・コミュニケーション研究所」は存在していた。だが、当時(およそ20年前)の印象では大学3年生向けに入所試験があり、合格した人は新聞業界を目指すというイメージが強かった。

つまり、門戸がその大学の大学3年生限定であること、そして学ぶ範囲がマスメディア限定のイメージがあり当時の私には興味外だったので受講をせず教職課程に進んだ。当時の私はしるよしもなかったが東京大学大学院情報学環教育部も前進の「社会情報研究所」という名前でまだマスメディアに限定して取り扱っていたようで、インターネットがまだ出はじめた時代という背景があったのかもしれない。

今は内容も変わっているように思うが、調べたところ大学3年生限定というのは変わっていなかった。東京大学の場合、4月から大学院に進学するもの以外は全て受け入れてくれる。大学2年時でも受けられるし、社会人、他大学のものもいる。また、在学中に大学院の修士課程を受け途中から大学院に入るものもいるという。

入試

試験は一次が筆記と書類選考、二次が面接となっている。おおむね60~70人程度が受験し、一次で40人、最終的に30人程度にまで絞られる。割合としては内部が6〜7割、他大学が2~3割、社会人が1割ぐらいの構成ということが多いようだ。

倍率でいえば2倍ちょっとだが、決して簡単ではない。東大の生徒は学費が無料なため受ける人数も多い。2倍ということは東大の中で平均以上というものを勝ち取らないと受からないということになる。

書類

書類は自己推薦書、面白そうな授業について履修したい理由、学習の志望理由書の3つがある。決して研究企画書ではないのでそこは注意したい。私は昨年秋に2回骨折したこともありパソコンで書類を作ったが特に問われなかった。この書類は二次の面接でも使われるとても重要なものなので、しっかり時間をかけて書きあげたい。

私はあまり時間をとれなかったが、思いついたキーワードがあったらメモをしておいて、後々それを構成するスタイルをとった。ただ、A41枚で1,200字程度と、思ったより字数が書けないので簡潔に述べる必要がある。実際、提出してから面接までは1か月の開きがあるので、その間に知見が広まってあの内容を書いておけばよかった、と思うことはあった。

一次

一次試験は論文による筆記試験だが、試験内容が正直全く予想ができない。過去問題は昨年度のものは学務チームから取り寄せができるのだが、そのときのテーマは「ビッグデータ」であった。私は5G、AI、ブロックチェーンといったIT系の勉強を中心にしていったが、出題は「メディアリテラシー」系のものだった。調べてみると社会学から情報学・ITまで毎年ジャンルの振れ幅があり、問題数も年によって違うようだ。

試験は、論文形式で数年に一度傾向が変わると見られている。現在は3問程度答えるのが普通になっている。最後の問題がいわゆる大問で、答えのないようなことを聞かれることもある。

注意したいのは、試験時間が60分しかない点だ。当然、若い学生が有利となる。論文を短い時間で書く経験というのは社会人には多くなく、またパソコンとばかり向き合っているといざという時に意外と思っていることがかけないのだ。

「東大の現国に近い」と例える者も多く、そういう意味でも「体力勝負」「スピード勝負」に弱いのは社会人の私も自覚するところだった。試験後にあれを書いておけばとか、もっと理論的に整理できればという思いがあった。事実社会人は一次では年齢層広く60代以上とおぼしき面々も見られたが、二次面接時にはだいぶ減っていた。

二次

面接はアカデミックな議論を想定していたのだが、どちらかというと一般的な問いが多かった。人によっては圧迫気味という感想も聞かれたが、決して高圧的ではない。ただし優しくもない。一般的なやる気、何故情報学環でなくてはならないのかを見ているように感じた。

議論する気でいったのに一般的な問いだったため逆にてんぱってしまい、あまり手ごたえはなく、面接から合格発表までが3週間あるので正直不安な日々をすごした。何故合格できたのかは自分にはわからないがとりあえず熱くるしさは見せれたのでそこなのかもしれない。

試験対策

試験対策としてはまず学務チームに行くと自治会という生徒の有志が作ったガイドがもらえる。また、インターネットで「情報学環 試験」とか適当に調べるといくつか受験体験記が見ることができる。また、毎年11月に行われている入学説明会はできるだけ言ったほうが良い。勉強できる範囲が広いということは「よくわからない」ということでもあるので少しでも解像度を広げておく必要があるからだ。

一般的にはメディア論や社会学の基礎的な本、論文(Ciniiなどで)を読んでおいた方が良いと思うが、読まなくても合格したという剛の者もいる。大事なのは試験範囲が広すぎるため一朝一夕に知識が身につくわけではない。日々そうしたキーワードに触れている体制に置くことが大切だと考える。

そういう意味ではZOORELで記事を作るための素地として日々5Gだ、やれVRだ制作だと最新の情報のキーワードを英文・日本語問わず読み込んでいたのが自然と勉強になったのかと思う。

また、たまたま六本木ヒルズ森美術館で開催されていた「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」にいっていたなどイベントを見に行っていたのも知見を広げる意味ではよかったと思う。

私はもともと机に向かって勉強ができないタイプで、基本的には日常の中で何か勉強をしたり寝ながら仕事をするといった極めて特殊な人間であることを念頭においておいてほしいが、受験勉強らしい“対策”というのは同情報学環教授である吉見俊哉教授の書籍を少し読んだ程度で、あとは日常でいかにアンテナを張っているかの方が重要な気がした。知識というよりかは日常の体験をマインド、思考に結び付けるということだ。

受験体験記のいくつかは非常に模範解答的な知識量と素晴らしい頭脳の持ち主だと読んでいて感じたが、実際問題はそこまでの知見がなくても突破は可能というのが私の見方だ。

特典

合格すると、研究生証が手に入る。そのため、各種優待が受けられる。また、御殿下グラウンドというスポーツジム施設の利用や周辺にある学生なら無料のカフェも(一部年齢制限あり)使うことができる。

映画やAdobeのソフト、パソコンなども学割で購入できることもあるが、学割証はでないので通学定期券は買えない。それでも社会人であればちょっとお得な気分になる。来年度以降受験しようと検討している方は参考にしてほしい。

※新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年度は最低半年は映像配信による講義になることが決定しています。(2020年4月1日時点)

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この記事を書いた人

ZOOREL編集部/黄鳥木竜
慶應義塾大学経済学部、東京大学大学院情報学環教育部で学ぶ。複数のサイトを運営しZOORELでも編集及び寄稿。引きこもりに対して「開けこもり」を自称。毎日、知的好奇心をくすぐる何かを求めて街を徘徊するも現在は自粛中。

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