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アフォーダンスと私たち 第2回

アフォーダンスと私たち 第2回

エレファントストーン エディターの今津です。

今回の記事では、私たちの身の回りの環境と大きく関わりのあるアフォーダンスについて、今回は、佐々木正人著『アフォーダンス入門ー知性はどこに生まれるのかー』にそくして、考えていきたいと思います。

まずは軽く前回の記事の復習から始めましょう。

アフォーダンスとは、 環境が動物に対して与える「意味」

ガードレールやドアノブやボタンのスイッチのように、モノの形質は、すでにそれを使用する人に対して、ある行為の方向性を決定しているような意味を持っています。こうした関係性が生まれるところ、そこにあるのがアフォーダンスでした。

アフォーダンスは、モノ(ガードレールやドアノブやボタンのスイッチ)が、行為(座ったり、開いたり、押したり)をアフォードしている、行為はモノにアフォードされている、という風に表現されます。

こうしたことを理解するために、私はとりあえず、Wikipediaやネットを参考に色々と考えてみたのですが、それから佐々木正人著『アフォーダンス入門ー知性はどこに生まれるのかー』というアフォーダンスについての入門書を読んでみました。

私のこうしたアフォーダンスの理解は、果たして正しかったのか……?

読んでみると大体合ってみましたが、アフォーダンスはこうした身の回りのモノに限らない、もっともっと広い領域に関わっているもの、ということが分かってきました。もっと広い領域、それはどういうことでしょうか?

唐突ですが、サンゴ礁の話をしたいと思います。

サンゴ礁の謎

サンゴ礁とは、サンゴというイソギンチャクの仲間が、生きている時に骨をどんどん下に成長させ、それが積み重なってできた岩です。
サンゴ礁には昔からある謎がありました。それは、なぜ、サンゴ礁には様々な形があるのか? です。サンゴ礁には、環礁、堡礁、裾礁の3つの形態があります。以下、写真をご覧ください。

この謎に答えるために、様々な説が提起されてきました。

  • 堆積説:陸地からの砂が海に流れ込み、それが堆積してサンゴ礁のある環状の輪を作る基礎になった説です。

しかしこれでは、なぜ陸地から遠く離れたところにサンゴ礁が生まれるのかを説明をすることができません。

  • 火口説:サンゴ礁は、海底火山の火口の丸いくぼみにそってできたのではないかという説です。

しかしこの説では、なぜサンゴ礁が単純な丸ではなく様々な形があるのかを説明することができません。

こうして様々な説が提起されては、却下されていく中で、かの有名なダーウィンが沈下説という説を提起し、これが現在の標準的なサンゴ礁形成の謎を解く説となっています。

ダーウィンの沈下説

沈下説とはどういった説でしょうか?

ダーウィンはいいます。「山々や、島々が、ひとつづつ、しかもゆっくりと海面の下に沈むにつれて、サンゴたちはリーフを作り成長するための新しい根を、つぎつぎ提供してもらう。」

つまりこういうことです。

例えば……
沈下率0mの時、浅瀬でしか生きられないサンゴは、沈下率0の島の周囲の浅瀬にサンゴ礁を形成する。
沈下率5mの時、島が5m沈むのに合わせて、0mの時に形成されたサンゴ礁はそのままであれば、5m海底に沈みます。もしそこでサンゴが生育するのに十分な光が与えられれば、サンゴは沈むことはなく、海上に顔を出します。サンゴ礁の骨の上にさらに骨が重ねられるのです。

あまりに島が沈む速度が速すぎれば、サンゴ礁は骨を積み重ねる前に海底にしずんでしまいます。
そしてこの繰り返し….

この説によって、なぜサンゴ礁の謎が解明されます。裾礁はサンゴ礁形成の最初の段階、堡礁はまだ島が完全に沈み切ってはいない段階、環礁は島が完全に沈んだ段階、という風に、島の沈み具合によって、また、島の形状によって、サンゴ礁の様々な形態が生まれるのです。

『アフォーダンス入門』ではこのサンゴ礁の形成について以下のように述べています。

サンゴはこのみずからの骨を堆積する生の営みと、堆積した大地の沈む速度との奇跡のようなハーモニーの結果として、地球上のいくつかの場所に地形を変更するほどのものすごく大きな痕跡を残した。大地の沈む速度、骨の堆積の速度、海水の温度、塩分の濃度、海の透明度、共生する種々の生き物との関係・・・数えあげればきりがない。すべてが渾然一体としてサンゴの生の持続が可能になったときに、サンゴは膨大なサンゴ礁をきずきあげてしまった

なんともスケールが大きい話ですね…。

生きものには「まわり」がある

そろそろアフォーダンスに戻りましょう。

このサンゴ礁が押してくれること、それはごくごく単純で当たり前なことなのですが、

生き物のすることには、それを可能にしているところがある、そしてそれを可能にしている変化の仕方がある、ということである。生き物のするあらゆることは、それだけ独立してあるわけではない。行為があるとこにには、かならず行為を取り囲むことがある。まわりがあって生き物のふるまいがある。

ということです。

以前の記事では、ドアノブやガードレールなど身近なプロダクトをアフォーダンスの例として紹介しましたが、もはやアフォーダンスはそれだけの領域に関わるわけではありません。

サンゴ礁形成時のアフォーダンスを確認してみると、サンゴ礁が生育するための栄養がある海がアフォードされ、十分な光がアフォードされ、島がアフォードされ、島の沈下がアフォードされ、というように、生きものが生まれるため、その存在のためにもまたアフォーダンスは関わっているのです。

ここまでくると、こう思われるかもしれません。「なんかもう、すべてがアフォーダンスじゃないか!」。

そうです。もう本当にあらゆることがアフォーダンスなのです。

光も重力も生まれた国も両親も家も乗り物も……あらゆるものが、私たちが知らないうちに私たちに何かをアフォードしていて、私たちは知らないうちにアフォードされているものを受け取り、それによって様々な行為を行うことができるのです。
サンゴ礁の奇跡のように、私たちの今があるのは、奇跡的な様々なもの複合的な結果というわけです。

つまり、アフォーダンスという考え方によって。私たちは世界を新しく眺める視点を与えられるのです。世界は、それぞれが独立している存在でできているように一見見えます。

しかし、すべての存在は単独では存在することができず、様々なそれ以外の存在によって、何かをアフォードされることで、存在できるのです。物事を、「それ単独」で見る視点から、「そのまわりとの関係性」で見る視点へ。一旦今回の記事はこれで終わりとします。

実は今回の話、『アフォーダンス入門』の一章にしか触れておらず、まだ自分も最後まで読んでいないので、相変わらず、行き当たりばったりで、引き続き、アフォーダンスについて考えていこうと思います!

アフォーダンスと私たち(第1回)
映画『彼らは生きていた』評 ―過去が現在になるとき―


 

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