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クリエイターにこそ読んでほしい漫画『ブルーピリオド』

クリエイターにこそ読んでほしい漫画『ブルーピリオド』

先日紹介させていただいた『左ききのエレン』に続き、クリエイターに超絶おすすめの漫画、第二弾です。それは、月刊アフターヌーンで連載中の『ブルーピリオド』(既刊3巻)という作品。

『左ききのエレン』が、社会人クリエイターの葛藤がリアルすぎて”しみる”漫画だとすれば、こちらの『ブルーピリオド』は読んでいるとクリエイターを志した頃の初心に戻って自ずとモチベーションが”あがる”そんな漫画です。

ブルーピリオドのストーリー

簡潔ではありますがストーリーをお伝えすると、世渡り上手でリア充な主人公が美術に目覚めて、日本最難関の美大・東京藝術大学を目指すというもの。

男子高校生の主人公・矢口八虎(やぐち やとら)君は、夜遊びばかりしているのに成績優秀でルックスもよく人当たりもいい。当然、異性からもモテます。

言ってみれば、みんなが欲しいと思っているものをすべて持っていて何でも出来る、そんなスクールカーストの王様のような人物です。


およそ充実とはほど遠いスクールライフを送っていた私からすると、一見、“あんちくしょう”な存在なのですが、この主人公、えらく共感できてしまうのです。

なぜか?

その大きな理由の一つは、DQN風ではあるものの、八虎君の心にぽっかりと深い空洞が空いているからかもしれません。周りに合わせるのが得意で、何でもそつなくこなしてしまう反面、すべて他人事のような気がしていつも心のどこかに空しさを感じてしまう。

他人に合わせて、素顔を誰にも見せず、なんとなく生きてるだけなんじゃないか?
もしかしたら、自分は誰ともつながれていないんじゃないか?

そんな、思春期に誰もが通るであろう心の葛藤が、アートとはおよそ無縁そうな主人公がどっぷり絵画にのめりこんでいく大きな動機にもなっていきます。

ブルーピリオドは共感できる

主人公への大きな共感ポイントは、もう一つあります。それは、とにかく謙虚で努力家なところです。私はねじまがった性格なので、誰かが努力して成長していく様を見ると、ついつい「はやく穴に落ちてしまえ」だとかよからぬことを願ってしまうのですが、この主人公にはそんな邪念がいっさい湧きあがらなかったのです。

あら不思議。その理由はたぶん、この八虎君が誰よりも自分の身の程を知っているからなのでしょう。

スクールカーストの世界でこそトップオブザトップに君臨していた彼ですが、ひとたび美術の世界に行けば、いちばん底辺の下の下の存在として周囲から評価されるようになります。

なにせ、決して天才的な能力があるわけでもなく、しかも絵のスタートがかなり遅いというハンディキャップを背負いながら、あの東京藝術大学を目指しているのですから。同じ美大・芸大を志す人間からすれば無謀です。それでも彼は「才能」や「環境」をいいわけにして、夢をあきらめることは絶対にしません。

コンプレックスに心が折れそうになったとき、彼は自分を客観的に見つめ直し、厳しく冷静な目で現実と向き合います。

そうして課題を浮き彫りにすることで、それを一つひとつクリアしていく。そのひたむきな姿を見ていると、素直に応援したくなるし、自分も頑張ろうという意欲が自然と湧きあがってきます。

しっかりと自分の頭で考えて、思い立ったらすぐに行動し、あきらめずに努力し続けること。それが成長のいちばんの近道なのだと、いま一度八虎君から教わった気がします。

ブルーピリオドの登場人物は?

これまで紹介させていただいたように、基本的には主人公がひたむきに頑張るスポ根テイストのお話なのですが、周りの人物たちもみな個性的で魅力的です。

キャラクターが立っているだけでなく、一人ひとりの悩みや葛藤がきちんと描かれており、端々に作者の優しさがにじみ出ています。また、作中に登場する人物たちの描いた作品は、すべて実在する美術関係者が手がけています。そのため、主人公の成長過程がリアルに可視化されており、絵画を語る際の説得力もきわめて高いです。

こういった場面を見ると、なんだか自分も音楽や美術に目覚めた瞬間の純粋な感動がよみがえってくるような気がします。

モノづくりに悩んでいるときにこそ、ぜひこの『ブルーピリオド』を手に取ってほしい。前向きさと優しさにあふれたこの作品は、好きなものを仕事にしている(もしくは、しようとしている)すべて人の背中をそっと押してくれるはずです。

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この記事を書いた人

ZOOREL編集部/コスモス武田
慶應義塾大学卒。大学時代から文学や映画に傾倒。缶チューハイとモツ煮込みが大好き。映画とマンガと音楽が至福のツマミ。

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