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何故、eスポーツは流行に?
ゲーマーのプロ化と映像の関係を振り返る(その2)
前編ではeスポーツ(eSports)という言葉が登場する以前のゲームシーンの様子を簡単にお届けした。さて、後編はプロゲーマーというものが登場して以降、どうしてこんなにビジネスとして急速に広まってきたのかを解析する。そのヒントは「動画」である。
周辺機器を売るビジネス
元々プロゲーマーが日本で最初に誕生したのは2005年のことであった。個人名はふせるが、FPSのジャンルであった。当時のプロに対してスポンサー側が望んだのはパソコンの周辺機器をプロゲーマーの名前を通して売るということであった。
しかし、ゲームタイトル、またFPSというジャンルにおいてそこまで周辺機器を売るほどの規模がなかった。日本でマイナーなPCゲームで、さらに周辺機器にお金をかけてまでうまくなろう、そしてその周辺機器が自分たちが使っているものよりも良いという違いが分かる人は多くなかったのだ。
こうして日本で最初に登場したプロゲーマーたちは、契約を更新されずにムーヴメントにならず人知れず消えていったものが多かった。
観戦勢の登場
ゲームセンターはプリクラやUFOキャッチャー、大型筐体と呼ばれるゲームに占拠され、ビデオゲームはガンダムシリーズぐらいしか人気がなかったのだが、再びある程度活況を呼ぶようになったのは、カプコンが手掛けたストリートファイター4以降のことである。
長い間新作が出ずに版権をカプコンからアメリカの子会社カプコンUSAに手離していたストリートファイターシリーズだが、アメリカ主導で続編が発売されたのだ。
これを皮切りに、かつてほどではないが格闘ゲームシーンは賑わいを見せ、かつて遊んでいた大人がシーンに戻ってきたのである。中にはかつての全国大会上位者なども多かった。こうして他のメーカーも追随するかたちで格闘ゲームは続編が出始め、ジャンルが盛り上がりを見せるようになっていった。
前回、ゲームセンターのゲームでは「聖地」のように上級者が集うゲームセンターがあることを述べた。
しかし、新しいムーヴメントでそこに集ったのは上級者だけではなかったのだ。それが観戦勢と呼ばれる人たちである。
彼らはゲームをプレーすることはなく、ゲームセンターに上級者のプレーを見るためだけにやってくるのだ。そう、ゲームを見て、そこにコメントをする、まるでプロ野球やサッカーのような下地がでてきたのである。
こうして格闘ゲームはプロゲーマー登場への道筋をたどっていく。
動画配信とゲーム
元々、ゲームはプレーするところを録画するのが非常に難しかった。外部入力を通してゲーム画面をテレビに映し出すからである。
家庭用のゲームではテレビとビデオが一体化したテレビデオのようなものや、後に外部入力も録画できるビデオが登場したことで録画が可能になった。ただ、それらをもとに編集となると一般人に手に負えるレベルではなかった。
パソコンが一般的になると今度はラグの問題が付いて回ることとなる。
ビデオではなく、パソコンとゲーム機器、テレビをつないでゲームを録画し編集することはできるのだが、コンバーターなどを通してパソコンに映像を送り込むと、自分がボタンを押してから0.5秒後に画面に反映されるような状況であったのだ。これでは録画・編集はできても、満足にプレーすることができなかったのだ。
また、メーカー的にもプレー映像をインターネットに流すのは法律違反という声もあり、グレーゾーンであったのだ。つまり、ゲームの映像を録画・編集して楽しむというのは一時VTR時代に攻略ビデオなどが販売されたのを除き、ごく限られたマニアが同人シーンで提供するにとどまっていた。
ニコニコ動画とYouTuberの登場
大きくゲームシーンを変えたのは、ニコニコ動画とYouTuberの登場である。技術が進歩するにつれて、ゲームをリアルタイムに流すことが誰でも可能になっていた。
そこに登場したのが「ゲームを実況プレーする人たち」である。いわゆるゲーム配信者と呼ばれる人々である。
忙しいからもうゲームをプレーするのはちょっと難しいけれど、気になるゲームの世界を見てみたい。一緒にホラーゲームを楽しみたいといった需要は大きく、ゲームは実況を通して「見る」ものへと変わっていった。
私自身、ゲームはプレーするものであったが、大人になってその時間が取れなくなっていくとストーリーだけ知りたいとか、少し世界を覗いてみたいという気持ちを持った。
その時にニコニコ動画などで気になるゲーム名を調べると、そのプレー動画が見つかる。これは新しい体験となった。
今では、こうした実況者やゲーム大会の実況解説もプロとして食べていくものが登場し始めている。今のゲームは、プレーがうまい以外の道もわずかではあるが出来始めている。また、技術に長けたプロゲーマーもYouTubeで配信を流すことでファンと交流を図ることが定例化している。
そうなると、技術革新のスピードは早い。気が付けば、さまざまなジャンルでプロゲーマーが誕生。オフラインで開かれるゲームの大会もオンラインで配信が流されるようになり、気が付けばゲームの上級者のプレーを楽しむということが普通になっていった。
チーム戦の登場
ゲームは個人だけでなくチームとして戦うのもまた楽しいものである。今では1vs1の個人戦だけでなく2on2、3on3といったチームを組んだ戦い、スプラトゥーンのような4対4が基本のゲームなどが多く登場している。
こうしてさまざまなゲームで上級者のプレーが楽しめる素地が登場すると、ゲームの機能として映像の録画・配信をあらかじめ盛り込むようになっていった。
自分の試合は自動的に録画されて後で振り返ったり、サーバにアップロードして全世界に共有できるようになったからである。
そして、それらの中から熱い試合をまとめて編集しYouTubeに投稿をするものも登場し、さらにシーンは活気づくようになっていった。
ゲームの映像に「価値」がついた
また、メーカー側も「ゲームを実況する人」「ゲームの上級者」は周辺機器ではなく、ゲームタイトルそのもののPR役として認めざるを得なかった。草の根レベルだった大会は中にはスポンサードがつくものや、メーカーが公認の大会を開くようになった。
ゲームセンターの大会ではそれまで風営法の壁があったことを述べた。そのために、日本のゲーマーは任天堂の家庭用ゲームであろうが、FPSの大会であろうが、世界大会に乗り込んでいき賞金を狙いにいった。今でも、彼らは世界を転戦して賞金を稼ぐことは必須となっている。
一方で現在では、スプラトゥーンはプロ野球(NPB)がスポンサード、サッカーゲームであればJリーグがチームを持つなど企業がチームを持つようになり、大型のゲーム大会が毎日のように行われている。よしもとなどがeスポーツのチームを持ち、芸人を含むメンバーを送り込んでいるのは有名な話である。
もちろん、eスポーツの普及には裏に広告代理店がついたことや、きちんと協会を設立したことも大きな背景である。ただ、このようにゲームが“うまい”“楽しくなる”動画・映像というものに「価値」が登場したのは2000年代までには考えられなかったことであり、プロゲーマーを支える大きな要因になっている。
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対談:日本ストリートサッカー協会 畑中崇様×エレファントストーン 川畑直人【bacter】
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