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なぜ名シーンには「雨」が多い?映画やミュージックビデオにおける雨をちょっと深堀り

なぜ名シーンには「雨」が多い?映画やミュージックビデオにおける雨をちょっと深堀り

じめじめした湿気や、ぬかるんで滑りやすい道など、生活面ではデメリットの多い雨ですが、映像表現となると話は異なります。

『ショーシャンクの空に』『レ・ミゼラブル』『言の葉の庭』といった作品に象徴されるように、映画やミュージックビデオでハイライトとなるようなシーンでは、意図的に雨を降らせる演出が多く見られます。そこで本記事では、“なぜ名シーンには雨が多いのか”について、その心理的効果を交えながらちょっと深堀りしてお届けします。

映像表現における雨、4つのイメージ

アーティスティックな映像、幻想的な映像、エンターテインメント性あふれる映像――雨の効果をうまく活用した映像は様々ですが、「映像表現における雨のイメージ」には、代表的なものとして以下の4つを挙げます。ここでは、雨のシーンが印象的な古今の名画やミュージックビデオを紹介しながら、それぞれのイメージがもたらす表現効果について分かりやすく解説していきます。

1 苦しみや悲しみ/浄化と再生の暗喩

映画やミュージックビデオの世界において雨は、しばしば主人公の心の世界の外的な表れとして描かれています。その中でも最も使用ケースが多いのが、苦しみや悲しみを暗喩するものとしての雨です。

『世界の中心で愛を叫ぶ』(1分55秒のシーン)では、悲しみに閉ざされた主人公の心情と呼応するかのように雨が降り注ぐ街の景色が映し出されます。

これとは反対に、自己の抱えている苦しみや悲しみを癒やし、過去のトラウマや罪業を洗い流す装置として雨上がりのシーンが登場することもあります。そのような場面では、心に大きな傷を抱えた主人公の目線から、浄化と再生のシンボルとして雨が描かれることが多くなっています。

X JAPANの代表曲の一つである『ENDLESS RAIN』のミュージックビデオでは、心の傷をイメージさせるものとしての雨を描きつつ、雨の代わりに花びらが降り注ぐ演出をラストシーンに持ってくることで終わらない雨がないことを視覚的に暗示させています。

涙や悲しさをなぞらえながら、同時に浄化と再生のシンボルでもある雨の両義性を見事に描いたミュージックビデオと言えるでしょう。

2 非日常あるいはエンタメとしての雨

人の力の及ばない雨は、それ自体に一種の神秘性や非日常性を帯びています。

登場人物の心の動きや変化を表現するのではなく、神秘的な力をアピールするための道具として雨が用いられる代表例としては、気候現象を操作する力を持つヒロインが登場する『天気の子』が挙げられます。

雨が降りやまない東京の空を祈りによって晴れ間に変えるシーン(動画の3分31秒から)は、アニメ映画屈指の名シーンと言えるでしょう。また、雨を一種のエンターテイメントとして捉え、雰囲気作りや見せ場を作るための演出として活用するケースも少なくありません。

ミュージカル映画屈指の名シーンとして語りつがれている『雨に唄えば』の一幕では、土砂降りの雨の中で主人公が楽しそうに歌い踊り、日常とかけ離れた祝祭的な雰囲気を作り出しています。こうしたケースでは、雨をなにかの隠喩(メタファー)として用いるというよりも、雪合戦や雪だるまを楽しむかのように遊具的な性格を帯びた雨の楽しさを表現に取り入れている点に表現上の特徴があります。

3 外界との接続あるいは解放のメタファー

外的な世界と内的な世界のつながりを示す自然現象として雨が扱われることも少なくありません。このケースの代表的な事例としては、『ショーシャンクの空に』で描かれたあの名シーンを挙げることができます。

主人公が監獄からの脱出に成功した瞬間、閉ざされた世界から解き放たれた精神を祝福するかのように大粒の雨が降り注ぎます。

普通、解放感を天候で表現するとなると、眩いばかりの陽光や雨上がりの空が選択されがちですが、あえて雨のシーンを描く映像センスが本当に素晴らしいですよね。

4 外界との遮断あるいは孤独のメタファー

主人公の孤独感とリンクし外界と遮断された状態であることを暗喩するものとして雨が用いられることも少なくありません。

ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』では、叶わない恋心を抱く「独りぼっち」な女性の心情を表すものとして雨のシーンが描かれています。また、ミュージックビデオの世界では、雨の中を歩く若者の姿を描くことで、孤独のメタファーとしての雨を表現するケースが非常に多く見られます。

世界的なボーイズグループであるBTSのRMが2018年に発表した『forever rain』は、彼自身が経験した輝かしい時間の裏にひそむ深い孤独感を痛切に表現した楽曲です。モノクロのアニメーションに叙情的なラップが重なるミュージックビデオでは、栄光の瞬間においても胸中から振り払うことのできない孤独や不安を雨の描写によって印象的に描いています。

まとめ

このように雨は心理的描写を表現するものとしてよく使われます。今回は映画やミュージックビデオでの雨のシーンを4つの分類を行い紹介しました。雨の日はいやな気分になるかもしれませんが、そんな時は雨の心理的効果を狙った映像作品を少し思い出してみてくださいね。

この記事を書いた人

ZOOREL編集部/コスモス武田
慶應義塾大学卒。大学時代から文学や映画に傾倒。缶チューハイとモツ煮込みが大好き。映画とマンガと音楽が至福のツマミ。

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