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映画『パラサイト』だけじゃない。韓国映画5選

映画『パラサイト』だけじゃない。韓国映画5選

先日2月9日(現地時間)に発表された世界最高峰の映画の祭典「第92回アカデミー賞」で『パラサイト 半地下の家族』が「作品賞」「監督賞」「脚本賞」「国際長編映画賞」の4冠を達成し、広く世間を賑わせています。

アジアのみならず外国語の映画が最重要部門である作品賞を受賞するのは、アカデミー賞が始まって以来初の出来事。

「映画の歴史をぬりかえた」とまで絶賛される偉業によって、作品を手がけたポン・ジュノ監督ひいては韓国映画全体に大きな注目が集まっています。

知られざる韓国映画の世界ですが、今回は私の独断と偏見で数ある名作の中から悩みながらもおすすめの韓国映画を5本選んでみました。映画鑑賞の手引きにしていただけると幸いです。

イ・チャンドン『オアシス』(2002)

映画館を出るときに、今後これを超える映画は二度とあらわれないのでは……と脳みそを金づちで打たれたような衝撃を受けた作品です。もし韓国映画でおすすめをひとつだけ選ぶとしたら、迷わずこの『オアシス』を推します。

社会になじめない粗暴な男性と脳性麻痺でからだが不自由な女性の極限の恋のゆくえを描いた物語。

正直この作品を、恋愛というきれいな言葉で片付けてしまって良いものなのかいまだに答えは出ませんが、世間からつまはじきにされた男女二人の究極の結びつきが、『オアシス』には表現されています。

障害を持つヒロイン役を演じたムン・ソリの演技は壮絶の一言。骨や関節が変形し、一生治らない後遺症を負ってしまったエピソードが映画ファンの間では語り草になっており、それを見るだけでもお金を払う価値が。映画史に残るまぎれもない傑作です!

ナ・ホンジン『哀しき獣』(2010)

借金返済のために人殺しを請け負った男が、罠にはめられ韓国社会の深い闇と対峙するクライム・サスペンスの傑作。

鑑賞者の98%が「トラウマになった」と試写会後のアンケートで回答したほど、そのバイオレンスシーンは衝撃的。観る人を選ぶ映画ではありますが、とある人物が牛骨で銃や刀やもった男たちを殴り殺しにしていくシーンは、映画史上屈指の名暴力で鬼気迫るものがありつつ、どこかユーモラスなにおいも。他にも観たら一生記憶に焼きつくであろうバトルシーンが数多く登場。悪い男たちが活躍するフィルム・ノワールが好きな方には、ぜひ鑑賞してほしい作品です。

ナ・ホンジン監督も、これまで撮った作品は3本とかなり寡作ですが、本作と同系列にあたる『チェイサー』、ホラー映画ファン必見の『哭声/コクソン』と、どちらもおすすめの傑作です。

パク・チャヌク『お嬢さん』(2016)

大河ドラマさながらのドラマティックな純愛劇でありつつも、江戸川乱歩を彷彿させるエログロナンセンスな香りもする異色作。こんな大袈裟で美しくて下品で純粋な作品は、パク・チャヌクにしか撮れない!と思わせる唯一無二の世界観を持っていて、理屈ぬきにとにかく面白い。

1939年、軍靴の響く日本統治下の韓国を舞台としており、詐欺師の計画に乗った孤児の少女が日本人華族のお屋敷にメイドとして潜入。財産を強奪するつもりが、迂闊にも出会った美しい令嬢と激しい恋に落ちてしまい……。

「このミステリーがすごい!」で第1位を獲得したサラ・ウォーターズの小説『荊の城』を物語の原案としており、先を読ませない巧みなシナリオは見事というより他になく、ミステリー映画好きにもたいへんおすすめです。

女性同士の過激なラブシーンを余すことなく描きながらも、耽美な映像表現が追求されており、美術や衣装も摩訶不思議でとても美しく、女性からの支持も熱いです。エロティックな要素を毛嫌いせずに、こういう作品こそ幅広い層に見てほしい!

ヤン・イクチュン『息もできない』(2008)

これほど胸が締め付けられる映画は、見たことがありません。

『一瞬の夢』(1997)や『その男、凶暴につき』(1989)といった新人監督の鮮烈なデビュー作が世界に衝撃を与えたように、この『息もできない』もまた公開されるや否や映画界に大きなセンセーショナルを与えた伝説的な作品です。

借金取りをしながら社会の底辺で生きるサン・フンはある日、凄惨な家庭のなかで勝気に生きる女子高生のヨニと出会う。互いの心の傷に触れ、強く惹かれ合う二人だったが、彼らの運命の歯車は次第に狂いだしていく……

不器用で粗暴なアウトローの男を迫真の演技で表現したヤン・イクチュン監督は、寺山修司の小説を基にした邦画『あゝ、荒野』(2017)は吃音症をもつ内気なボクサーを演じており、とても同一人物とは思えないその演技の幅に大きな衝撃を受けた名優でもあります。

『あしたのジョー』や『巨人の星』といった昭和の少年漫画の名作の匂いが濃密に漂う『あゝ、荒野』も素晴らしい作品でとてもおすすめ。あわせて見てもらえるとうれしいです。

『1987、ある闘いの真実』(2018)

それまで軍事政権だった韓国で吹き荒れた、1987年6月の民主化闘争の真実を描いた社会派の大作ドラマ。

本作は、警察によるソウル大生の拷問致死事件を発端に、政府への怒りと不信がやがて韓国全土を巻き込む民主化闘争の大きなうねりとして広がっていった、現代史の重要な出来事を真正面から扱っています。それにもかかわらず、決して生真面目な作風にならず、小難しいことぬきで全身を揺さぶられます。単純にものすごく面白い映画に仕上がっていて、見終わったとき韓国映画の底力に心底震えました。

『パラサイト 半地下の家族』でも感じたことですが、韓国映画はナイーブな社会問題や政治的テーマをエンターテイメント性を保ちながら描くのが抜群にうまいです。

同じく韓国が民主化の道を歩むきっかけとなった光州事件を描いた『タクシー運転手~約束は海を越えて~』とともに、「社会派エンターテイメント」の決定版になっているので、ぜひ鑑賞してみてください。


 

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この記事を書いた人

ZOOREL編集部/コスモス武田
慶應義塾大学卒。大学時代から文学や映画に傾倒。缶チューハイとモツ煮込みが大好き。映画とマンガと音楽が至福のツマミ。

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