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電通が発表した「2019年 日本の広告費」その内訳を読みとく

電通が発表した「2019年 日本の広告費」その内訳を読みとく

11日、電通が2019年の日本の広告費についてレポートを発表した。その中には映像・動画の世界でも注目すべき単語が並んでいた。

プレスリリースによると
・拡張するデジタル領域やイベント領域を追加推定し、日本の総広告費は、6兆9,381億円となった
・前年同様の推定方法では、6兆6,514億円(前年比101.9%)
・8年連続のプラス成長
・インターネット広告費が、6年連続2桁成長でテレビメディア広告費を超え、初めて2兆円超え
と重要なポイントが記載されていた。

こうした言葉をそのまま鵜呑みにしてよいのだろうか? 深く読み解いていこうというのが今回の趣旨だ。

「追加項目」という妙はあるがプラス成長

当然、成長を記録している日本の広告業界だが、「項目が追加」されているためそのまま数字を読み取れない。まずは、追加項目について説明する。

追加となったのは「物販系ECプラットフォーム広告費」の1,064億円と、「イベント」内の「イベント・展示・映像ほか」5,677億円である。

「物販系ECプラットフォーム広告費」は、ECサイトプラットフォームに出店している事業者がそのプラットフォームに出稿している広告費である。例えば、AmazonならAmazonへ支払ってるお金、楽天なら楽天へ支払っている広告費分となる。

「イベント・展示・映像ほか」とは、従来あった「展示・映像ほか」の項目がより広く再定義されたもの。販促キャンペーンも含む広告業が手掛ける各種イベント、展示会、博覧会、PR館などの製作費、シネアド、ビデオなどの制作費と上映費などを合計したもので、「イベント」、つまり、ポップアップストア、スポーツイベント、PRイベントなどの分が増えている。

要は、ラグビーワールドカップのイベントや新元号制定に関する祝賀イベントなどの費用がそこに上乗せされたといってよいだろう。およそ68億円の黒字と大成功を収めたラグビーワールドカップがあった「当たり年」なだけに、そのプラス分は容易に想像できる。とはいえ、今年追加された項目を加味しない前年同様の推定方法でも、合計6兆6,514億円(前年比101.9%)と8年連続のプラス成長を記録している。

インターネット広告は本当に伸びているのか

インターネット広告費が、6年連続2桁成長でテレビメディア広告費を超え、初めて2兆円超えという題目を次に読んでいこう。

「日本の広告費」は、(1)マスコミ四媒体広告費、(2)インターネット広告費、(3)プロモーションメディア広告費に分けられるが、インターネット広告費は2兆1,048億円(前年比119.7%)と2桁成長を続けている。

しかし、よくよく見るとマスコミ四媒体(雑誌・テレビメディア・ラジオ・新聞)は減ったといえ2兆6,094億円(前年比96.6%)、プロモーションメディア広告費は2兆2,239億円(前年比107.5%)と、実はインターネット広告費はいまだ他の媒体に規模的には負けている状況。つまり、テレビには勝ったというもののラジオ、雑誌等旧来のメディア合計には未だ追い付いていない。

裏を返せばまだまだ伸びしろがあり、来年、再来年あたりにインターネット広告費がマスコミ四媒体すべての広告費を上回る可能性が高い。

しかし、インターネット業界の勝利とすんなり言えない事情もある。内訳を計算してみるとインターネット広告費の中に「テレビメディア」などマスコミがインターネットを通じて得た広告費も含んでいるからだ。

何故かといえば2019年のテレビメディア広告費は1兆8,612億円だが、インターネット広告費2兆1,048億円のうち上述の追加項目「物販系ECプラットフォーム広告費」1,064億円を差し引くと1兆9,984億円になる。さらにインターネット広告費の中のテレビメディアデジタルは154億円、これをテレビメディア広告費の方に乗せ換えると、テレビメディア広告費は1兆8,612億円+154億円で1兆8,766億円、インターネット広告費は1兆9,984億円-154億円で1兆9,830億円と拮抗したような数字になる。

つまり、インターネット広告費は確かに伸びているのだが、大規模なインターネットプラットフォームの躍進の影で旧来のマスコミ四媒体がWebを母体に変えている分、差をつめているという側面もある。

マスコミはインターネットサービスへと姿を変える

そう、マスコミ四媒体が手をこまねているわけではないのだ。結局、雑誌もテレビ局もインターネットサービスに着手しているからだ。マスコミ四媒体がもとになっているデジタル広告費は715億円と、前年度122.9%成長を見せている。

中でも注目すべきはテレビメディアデジタルが154億円と146.7%成長をしていること。民放公式テレビポータル「TVer(ティーバー)」など、テレビを視聴することのできるアプリ映像サービスに乗り出すことで広告費が増えているのだ。特に同154億円のうち150億円を動画広告が占めており、今後も動画広告の成長は期待ができる。

一方で、マスコミの中では出版不況からいち早くオンライン化を進めてきた雑誌デジタルは405億円(同120.2%)と、規模感でいえばテレビメディアの倍以上をすでに記録している。雑誌ならではのクオリティの記事をWeb、雑誌両方に展開することでタイアップ広告、動画広告を獲得していることが大きい。

確かに筆者である私もインターネットメディア、出版両方を経験したことがあるが、1記事当たりにかけられる予算は出版業界の方がはるかに高いことは否めない。となると、必然的に写真1枚をとってもクオリティの高いものが使える(または作れる)ので動画広告でブランディングしたいというファッション、ヘルスビューティーの業界などはいち早く伸びていると思われる。

また、目立った個人を取り上げやすい雑誌は、SNSとの結びつき、YouTuber、インフルエンサーの育成など、今の時代にマッチしているのも大きい。

インターネット発の企業が発想力をもとにすべからく伸びているというよりは、資金力のあるところがこれまで培った媒体としての力をもとにインターネットへと変化してきている、というのが正しいだろうか。

隠れた逸材? デジタル広告と結びつくプロモーション広告

テレビvsインターネットの構図に隠れがちだが、順調な成長を見せたプロモーションメディア広告費2兆2,239億円(前年比107.5%)という数字を放っておいてはならない。

特に、ダイレクトメール3,642億円(前年比99.0%)、折込チラシ3,559億円(前年比91.0%)が前年度割れを記録する中で伸びているのは、デジタルサイネージの普及が大きい。

ZOORELでも注目したことがあるが首都圏ではタクシーの車内モニター広告、電車内でも今や液晶モニターからコンテンツが流れるがいずれも好調だという。地方では普及はまだなため、交通広告全体では2,062億円(前年比101.8%)となっているが、今後は「交通+映像広告」はより波及していくだろう。

また、屋外広告3,219億円(前年比100.6%)も首都圏の検討が目立った。デジタルサイネージやLEDを使った看板が青山、渋谷といった地域では今や当たり前になっているが、今後こうした映像看板も全国的に増えていくだろう。

伸びてないようで伸びているダイレクトメール事業

さて、そのプロモーションメディア広告では前年度マイナスながら同じようにデジタル広告と結びついているのがDM事業だ。

「日本の広告費」には含まれない「DM制作関連市場」(2019年1,202億円)によると、フリーペーパー、電話帳といった広告費は落ちているが、POPでは98.5%と落ちながら持ちこたえているという。

単純にPOPを紙で作るのではなく試作品をおいたり、POP自体を「デジタル」にする、AIロボットの活用といった最先端の技術を店頭体験にいかそうとPOPという名前にとどまらない幅の広さを見せつつある。

確かに今はオフラインではただ商品を見せるだけの時代は終わっている。何故かといえばインターネット通販の方が安く買えるからだ。店頭ならではの魅力として「体験ができる」「実物を触れる・見れる」といったものをどう強化していくかが肝になる。

かつてヴィレッジヴァンガードは店員の書いた書評を売りにしていた。これからはデジタルなPOPを作るとか、ランキングや店員のおすすめ商品をディスプレイに出すとか、店頭を「一メディア」としてPOPの活用がより肝になるのではないか? と考えた。

確かに本屋なんかでも小さいテレビモニターがあるとか、今はとにかく液晶を街中で見る機会が増えている。そう、肝は動画・映像広告にあり、と見るのは早計だろうか。

電通 プレスリリース「2019年 日本の広告費」

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この記事を書いた人

ZOOREL編集部/黄鳥木竜
慶應義塾大学経済学部、東京大学大学院情報学環教育部で学ぶ。複数のサイトを運営しZOORELでも編集及び寄稿。引きこもりに対して「開けこもり」を自称。毎日、知的好奇心をくすぐる何かを求めて街を徘徊するも現在は自粛中。

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