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映画で学ぶアメリカの人種差別の歴史
エレファントストーンの横山です。
今年の5月アメリカのミネソタ州で事件がありました。日本でもニュースで流れたのでご存知の方も多いかと思います。高校から大学を卒業するまでの8年間、ミネソタに住んでいた僕としては非常にショックでした。
世界的に大きなデモが起こっていますが、この問題について日本人が理解するのは難しいのではないかなと思いました。そこでアメリカ育ちの僕が、アメリカにおける黒人差別が、単なる歴史的事実としてだけでなく、今でも根深く残っている問題であるということがわかる映像作品を選んだので紹介します。
“Roots” (1977)
アメリカの黒人差別の始まりはいつでしょうか。
高校1年生の授業で見た映像作品は、1977年に放映された「Roots」でした。こちらは映画ではなくテレビシリーズになります。アメリカでは当時を忠実に再現していることも話題になり、アメリカにおける黒人差別の原点とも言えることから、授業で2日間見ました。
物語は、アフリカで主人公のクンタ・キンテが生まれたところから始まります。ある日青年になったクンタ・キンテは初めて白人を見ますが、捕らえられてしまい、奴隷船に乗せられてしまいます。クンタ・キンテの代からアメリカに連れ去られ、奴隷制度が廃止される南北戦争までの3世代におよぶ物語です。
授業で習った印象的に残っているものが“Roots”以外にもあります。これは映像作品ではなく、建造物になるのですが、Door of No Returnという門の存在です。この“帰らざる門”という意味の門は、アフリカからアメリカへ奴隷として連れ去られると戻ってこられないことから名付けられました。
今ベナンにあるものは比較的できた記念碑ですが、当時船に乗る前に門を通ったと聞いたことがあります。
“Boyz ‘n the Hood” John Singleton (1991)
大学受験で初めて「Affirmative Action」という言葉を知りました。日本語にすると“肯定的差別”で、マイノリティーが不利な状況を是正するための改善施策のことです。アメリカで差別が消えない理由の一つとして、貧困層が住むコミュニティに黒人が集まっていることが多いことがあげられます。
この映画を見るとコミュニティからの脱却がいかに必要かがよくわかります。
この映画は、主人公と仲間の幼少期から始まり、大学受験を目前にした高校生の物語です。地域や教育が重要な役割を果たしているので、この映画を通してアメリカの黒人の考えや生活がよくわかると思います。
嘘か本当かわからないですが、近年のハリウッド映画ではインテリの黒人キャラクターを登場させるようにしているそうです。これもAffirmative Actionでしょうか?
“Bamboozled” Spike Lee (2000)
大学の授業で、Black Filmを学ぶ機会がありました。黒人が主人公の物語や、黒人文化が軸となった映画のことを指します。
“Bamboozled”で学べるのは奴隷制度廃止後も黒人差別は現代まで続いているということです。アメリカではミンストレルショーという舞台(のちにテレビ)が1800年〜1900年頃までありました。白人が顔を黒塗りして黒人の役を演じていました。(テレビになってからは黒人も登場するようになります。)
この映画では、当時のミンストレルショーを黒人二人がテレビ再現するというものです。黒塗りを当時の方法で自らの肌を黒くペインティングします。劇中、この番組は大変人気になりますが、やはり反対するものが出てきて、主人公も悩みます。
この映画でさらに面白いのが、黒人に対する皮肉が散りばめられており、これ笑っていいの?ってシーンが多々あります。残念ながら日本語字幕/吹替は存在しないようです。ネイティブスピーカーと一緒に見るのが良さそうです。個人的にBlack Filmの中で一番好きな作品で、オススメです。
ちなみに、アメリカではBlack Filmの人気は二度ありました。一度目はBlaxploitationと呼ばれ、ファンクミュージックや黒人文化が流行となった1970年代です。ですが、これは5年で衰退します。なぜなら制作者が白人で、描写が白人からみた黒人文化であり、登場人物も黒人に対する偏見に満ち溢れていたからです。
そして1990年代に黒人によるBlack Filmがまた人気を博します。今回は黒人によるBlack Filmです。今回紹介する“Bamboozled”を監督したSpike Leeはその火付け役となった黒人監督の一人です。
“Green Book” Peter Farrelly (2018)
ジム・クロウ法が近年まで存在していました。白人と有色人種の公共施設利用を区別する法律です。ここで有色人種と書いたのは、WhiteとColoredと区別されていたからです。ジム・クロウという名前の由来はBamboozledでも紹介したミンストレルショーに登場する黒人キャラクターによります。
そのジム・クロウ法がまだ存在していた1960年代の、黒人ピアニストとボディーガード兼運転手となる白人の実話に基づいた物語です。タイトルにもなっているグリーンブックというのは、有色人種でも利用できる宿泊施設が記載されている本のことです。
宿泊施設以外にもトイレすらも使えなかったり、この映画を見ると、白人が黒人に対してどう接してきたかわかると思います。それも数十年前の出来事なのでびっくりしますよね。さらに黒人奴隷を先祖に持たず、富裕層の黒人としてのアイデンティティも面白いです。
グリーンブックの存在は映画を見るまで知らなかったのですが、ジム・クロウ法によって、水飲み場が制限されていたり、バスは後ろの席にしか座れなかったりしたことは小学校の頃から知っていました。ローザ・パークスによるバス・ボイコット事件は必ず勉強します。
“13th” Ava DuVernay (2016)
このドキュメンタリー映画はアメリカの黒人差別の歴史を知っている前提で進行するので、紹介するか迷いましたが、ミネソタで起こった事件も警察と黒人の事件であったので、紹介します。
13thというのはアメリカの憲法修正第13条のことです。13条は奴隷廃止についてなのですが、この映画では、13条の中の‘罪人は除く’という一文により、現代でも奴隷制度が残っていると訴えています。終盤に差し掛かると、黒人差別の歴史的資料がたくさん出てきます。ぜひ見てみてください。
Netflixで見られますが、加入していなくてもYouTubeで見られます。
いかがでしたでしょうか?見たことある作品もあったかと思います。アメリカにおける差別問題は、ただ単に肌の色による問題ではなく、人種による背景や歴史の問題ということを知ってほしいです。
僕がアメリカの高校に通っていた時、クラスのアメリカ人には、ユダヤ系、ルーマニア孤児、モン族、アフリカ系移民という様々な背景を持つ人がいました。彼らもまた差別まではいかずとも、冗談でからかわれたり、変に気を遣われたり、普通とは違う対応を受けた経験があるはずです。歴史、人種、法律、施策、アメリカの問題はっても複雑です。これを機になんとなくでもわかってもらえたらと思います。
超ちなみにですが、黒人の呼び方について、昔はブラック(Black)と呼ぶと差別表現だったので二グロ(Negro)と呼び、いつからか逆転して二グロと呼ぶと差別表現となるのでブラックと呼ぶようになりました。現代ではブラックも差別的なので、アフリカン・アメリカン(African American)と呼ぶことが推奨されています。が、今では奴隷を先祖に持つ人と移民系を分けるためにまたブラックを使う人たちが現れてきているようです。