HOW TO・TIPS
いまさら聞けない「映像」と「動画」の違いとは【最終回】
二つの言葉の本質的な違いについて
本質的ではあるものの、今さら聞くのもちょっと恥ずかしいテーマで書く記事も、今回で3回目。
第1回:いまさら聞けない「映像」と「動画」の違いとは
第2回:「映像」の起源とは? インターレスとプログレッシブ
前回は、化学の専門用語として誕生した「映像(影像)」という言葉が、1950年代のテレビジョンの登場とともに今日の意味合いに近い概念として一般に定着していった歴史的なプロセスを確認しました。
いよいよ最終回となる今回は、「映像」という言葉が、現在使われているようにクリエイター向けのプロフェッショナルな意味を含むようになっていった経緯、インターネット登場以前に使われていた「動画」という言葉の概念に立ち返ることで、二つの言葉の違いの本質について迫ってみたいと思います。
完パケとしての映像
なぜ「インターネット的」であり「アマチュアっぽい」ともイメージされがちな「動画」に対して、テレビをあらわす用語として使用されていた「映像」という言葉から、私たちは「プロフェッショナル」「高品質」といったイメージを想起するようになったのでしょうか?
そこには、テレビで放送されるコンテンツが単純にプロの技術者によって制作されるものであるというだけでなく、テレビ業界独自の事情が見え隠れします。
というのも、録音・録画技術が進歩し素材の「編集」が一般的となる1980年代に入るまで、テレビでは「生放送」が基本でした。ドラマのようなコンテンツでも、スタジオ撮りの生放送であることも珍しくなかったようです。
そうした当時の生放送文化のもとで制作された映像は、未編集のものとは異なり、プロによりリアルタイムでの演出と編集が加わりすべての処理が終わったそのまま放送できる「完成パッケージ(完パケ)」そのものであったため、「テレビ」=「映像」=「完パケ(プロの編集済み)」といった言葉のニュアンスや概念もまたおのずと発生していったと考えられます。
そして、このようなテレビ業界の通例はしだいに世間一般にも浸透し、その結果として現在でも「映像」=プロっぽくて高品質というようなパブリックイメージを私たちは無意識のうちに持ち続けているのです。
「動画」=アニメだったアニメーション黎明期
テレビ誕生とともに同時並行で生まれたのが「アニメーション」です。
そして、テレビジョン放送がスタートする少し前の1948年に設立された現東映アニメーションの前身「日本動画社」の名が物語るように、アニメーションの日本語訳として当てられたのが「動画」の語彙でした。
そう、今日では“インターネット的”なコンテンツとしてとかくイメージされがちな「動画」ですが、その語源をひもとけば「アニメーション」というかなり限定的なコンテンツに該当する単語として使用されつづけてきた歴史的な事実があります。
しかしながら、「動画」という語彙はしだいにアニメから乖離し、1970年代には「アニメーション」の語が和製英語として完全に定着。
使用頻度が減っていた「動画」という言葉の復権は、1990年代のインターネット登場まで待たねばなりません。
私自身の経験をふりかえってみても、十代の頃にパソコンゲームやゲームセンターでCGイラストが連続的に動く作品(映画やアニメーションと遜色にないような現在のそれとは違って、パラパラ漫画のようなクオリティ)のことを「動画」と呼んでいた記憶がありますが、インターネットが普及する1990年代後半までは「動画」という言葉を使用するシーンはかなり限定的だったように思えます。
近年は、「動画」という言葉もすっかりセルアニメの世界から解き放たれ、ウェブ動画全般あるいは、インターネットぽい動画全般を「動画」と呼んでいる私たちですが、そもそもの漢字通りの意味合いが「動く画」であることを考えれば、言葉自身が本来おさまるべきところに居場所を見出した当然の帰結のようにも思えます。
まとめ
「映像」と「動画」の違いについて長々と確認してきた本記事ですが、ごく簡単にまとめるとお伝えしたかったことは以下のようになります。
【映像】
・テレビジョンの発明によって化学の専門用語だった言葉が世間一般にも定着
・テレビ業界の生放送文化の影響が大きく、現在にいたるまで「映像」=「完パケ(プロの手が加わる)」の意味を内包
・現在の「映像」はIPT(情報の圧縮度)が低いコンテンツとも定義される
【動画】
・アニメーションの対訳として誕生した言葉
・インターネットの登場によってその意味合いが「動画」=「インターネット的」なコンテンツへと大きく変化
・現在の「動画」はIPS(情報の圧縮度)が高いコンテンツとも定義される
そもそも言葉の概念や定義付けというものは、たとえそれが誤用であっとしても人々の慣習や通例によって時代とともに刻々と変化していく“生モノ”ものですし、私の見解もまた一個人の見立ての域を出るものではありません。
したがって、たとえ両者に明確な差異があったとしても、あえてその違いを意識する必要性はないのかもしれません。常識に縛られない融通無碍な姿勢もクリエイティブな作業には大切です。
しかしながら、その一方で「映像作品」として他の「動画コンテンツ」との差別化をはかるような制作上の意図があるとき、視聴者のパブリックイメージを言語化された概念として明確に認知しておくこともまた、決して無意味なものにはならないはずです。
今回の記事が、言葉にとらわれず、かといって無関心にもならず、柔軟な発想で自身のクリエイティビティを発揮する一助となればとてもうれしいです。
第1回:いまさら聞けない「映像」と「動画」の違いとは
第2回:「映像」の起源とは? インターレスとプログレッシブ
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