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プロモーションのアイデアはカルト映画に学べ!カルト映画界の傑作予告編
「短編の映像づくりは映画の予告編に学べ!」をスローガンに映画CM・トレイラーの傑作をピックアップしてご紹介シリーズ、今回はカルト映画の予告編を厳選してご紹介します。
今回、取り上げさせていただいた作品は、『エル・トポ』、『The Garden』、『裸のランチ』、『武器人間』の4作品です。
カルト映画の予告編には、プロモーションのアイデアと技術がつまってる
「なぜにカルト映画?」と思われるかもしれませんが、俗にカルト映画と評されるジャンルは、奇想天外で荒唐無稽で意味不明な物語とは裏腹に、非常に独創的で美しい映像世界を描き出した作品が多いという特徴があります。そのため、作品の持つアンバランスな魅力を予告編というわずかな時間の中で表現するためには、必然的に高度な編集力と構成力が要求されることになります。
また、事前からある程度の集客が見込める作品とは異なり、熱狂的なファンを持つ一方で一般ユーザーの関心が希薄なため、一度聞いたら忘れられないキャッチコピーを用意して、より多くの層へアピールすることもとても重要です。
そう、カルト映画の予告編には、プロモーションのアイデアと技術が駆使されている事例が豊富にあるのです。(このジャンルには、ほんとうに面白くてプロモーション映像の手本になるような作品が多いので、何回かに分けてお届けするつもりです!)
エル・トポ(1971)
カルト映画のなかのカルト映画であり、カルト界の頂点に君臨する奇跡の怪作『エル・トポ』。その予告篇のクオリティもまた素晴らしく、グロテスクでありながら一度見たら忘れられない神秘的な映像の絵巻物に仕上がっています。
いかがでしょうか?
目眩すら覚える魔術のようなカットの連続は、40年の歳月を経ても今なお色褪せない不思議な魅力に満ち溢れています。全知の視点とも評される俯瞰ショットが多用されているのもまた印象的ですよね。
なんといいいますか、神さまのような超越的な存在が下界を見下ろしている感がめちゃくちゃ滲み出ていて、新たな創世記を描き出したとされる『エル・トポ』の世界観にぴったりな手法になっているのではないでしょうか。
本作を手がけたアレハンドロ・ホドロフスキー監督は、錬金術のように詩的で美しい映像を生み出す一方、メタファーを多用した象徴的な物語描写が多く、非常に難解な作風で知られるカルト界の巨匠です。
(ホドロフスキー監督自身がその作風について解説した2020年公開の意欲作『サイコ・マジック』)
『エル・トポ』も一応はさすらいのガンマンが世紀末的な荒廃した世界をさすらうというストーリーになっているものの、正直何回見ても今だに「なんじゃこりゃ!?」な作品のため、力不足で申し訳ないのですが内容についてはとても解説できそうにありません。
もし、予告編で興味を持たれた方がいましたら、ぜひ本編も実際にその目で確かめてみて下さい。「すべての常識を超える、映画の神秘体験」があなたを待っています!
The Garden(1990)
筆者的に映画史上いちばん美しい予告編だと感じている作品がこちら『The Garden』(Original Trailer)。
さざなみに揺れる海の風景から神秘的な祝祭の情景が次第に浮かび上がっていくカットの繋ぎ方がめちゃくちゃ綺麗ですよね。ほんの一瞬で人を幻想の世界へと誘う映像の魔力を感じずにはいられません。
1994年にエイズで亡くなった本作の監督デレク・ジャーマンは、同性愛を主題にポエティックで官能的な映像世界を紡ぐひときわ「尖った」作品の数々で世界に衝撃を与えた、英国を代表する芸術家の一人です。
同世代のアーティストの間でも彼の熱狂的なファンは多く、筆者も大好きなUKロックバンドTheSmithsやSuede、PetShopBoysといった錚々たるミュージシャンたちのミュージックビデオを撮ったことでもその名が知られています。
デレク・ジャーマンは、園芸家としてもその天賦の才をいかんなく発揮し、エイズに冒された彼の終の住処となった「プロスペクト・コテージの庭」は写真集にもなったことで世界的に有名になり、今も多くの人々が訪れるケント州の名所になっています。
地上の楽園のようでいて、ドーバー海峡を臨む原子力発電所を背に造られたそのガーデンは、どこかこの世の果てを思い起こさせる耽美で終末的な雰囲気も漂わせており、動画で見ても思わず息をのむほどの美しさ。
先の予告編同様、天才と評された映像作家ならではの独創的な世界観が見事に表現されているので、ぜひあわせて見てみてくださいね。
裸のランチ(1991)
ナレーションのキラーフレーズが頭にこびりついて離れなくなる予告編の傑作をもう一つ。
「美味しく食べよう!裸のランチ!」 シュールな映像とのギャップがこれまた最高です。たまに現実と妄想、幻覚がない交ぜになってよく脈絡が掴めない映画やアニメってありますよね?
そうした作風の源流の一つとも考えられているのが、本作の原作となったウィリアム・バロウズによる同名小説『裸のランチ』です。
(ウィリアム・バロウズのドキュメンタリーフィルムより)
バロウズは、50年代・60年代のアメリカ文学を代表する作家として高名な一方、世の中のありとあらゆる麻薬を口にしたジャンキー界のレジェンドとしてもよく知られており、その悪夢のような幻覚体験をカット・アウト(印刷された文字を切って貼って継ぎ接ぎにする手法)と言われる独特のスタイルで綴った『裸のランチ』は、後のサブカルチャーにも多大な影響を与え、いまなおカルト的な人気を誇っています。
映像化は絶対に不可能と思われていたその小説を、これまた当時カルト的な支持を集めていた鬼才クローネンバーグ監督(代表作はハエ男の恐怖を描いた『ザ・フライ』)が視覚化してみせたのですから、本作がカルト映画の名品にならないわけがありません。
筆者は、巨大ゴキブリが人間の言葉で話しかけてくるシーンが大のお気に入りです。
現実と幻覚の境界線がドラッグによってどろどろに溶けて消えたバロウズ世界観を魔術のように描き出したクローネンバーグ監督の映像美は、映像ファンなら絶対に必見。UーNEXTでも視聴できます。ぜひ理性を殺して、どろどろになりながら視聴してみて下さい!
武器人間(2013)
ヒトラーの勅命を受けた博士が、第二次世界大戦の最終兵器として死体と機械を一つにくっつけた「武器人間」を製造しまくる超異色のサイコホラー映画『武器人間』。
正直にいうと、今回の記事は本作の予告編を見てもらうために筆を取ったといっても決して過言ではありません。お暇なときで構わないので、どうか最後までご視聴ください。
「人間と武器がくっついちゃったー!!!!!!!」 一度聞いたら生涯忘れられない予告編史上最強のパンチラインの登場です。
旧ドラえもん役の大山のぶ代さんによるほのぼの陽気なナレーションと残虐無比な世界観とのギャップがたまりません。
ちなみに本編では、新旧ドラえもんの声優陣もこぞって吹替に参加。旧ドラえもんでスネ夫役の肝付兼太さんが、武器人間を製造するヴィクター博士役を、旧ジャイアン役のたてかべ和也さんがナチス軍の研究室に侵入するソ連偵察部隊を率いるリーダー役を担当しているのをはじめ、現ジャイアン役の木村昂さん、旧のび太役の小原乃梨子さん、現のび太役の大原めぐみさん、元スネ夫役の関智一さんもソ連の偵察隊のメンバーの声を演じています。
ちなみに、Amazonプライムビデオでいますぐ観れちゃいます。
「3分間の詐欺師になれ」とも言われる予告編作りでは、限られた時間のなかで視聴者をいかに美しく欺くが問われる一面があるのも事実です。誰しもが、「予告編は面白そうだったのに……」という経験を一度はしたことがあるのではないでしょうか。
『武器人間』は、予告編は単なるダイジェストやハイライト映像なのではなく、本編とはまったく異なる一つの独立した作品なのだということを筆者に教えてくれた作品でもあります。ほんとうにお暇で他に何もすることがないときで構わないので、ぜひ予告編だけでなく本編もご視聴してみて下さい。(決して本編がつまらないと言っているわけではありません)。