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天才ミュージシャン×映画監督。意外なコラボだった90年代の邦画MVを振り返る

天才ミュージシャン×映画監督。意外なコラボだった90年代の邦画MVを振り返る

先日お伝えしたように、宇多田ヒカルさんのMV(ミュージック・ビデオ)『ONE LAST KISS』は、エヴァンゲリヲンシリーズを手がけた庵野秀明さんがディレクションを務めたことで大きな話題を集めました。

これまでの日本のミュージックビデオ史を振り返ると、このような天才同士のコラボレーションは決して珍しいものではありません。そこで今回は、現在の邦楽MVの礎を築いた90年代の作品の中から、映画監督と天才ミュージシャンのちょっと意外なコラボレーションをご紹介します。

黄金期を迎えた90年代のミュージックビデオ

アメリカのテレビ局「MTV」が開局された1981年以降、日本でも広く受容されるようになったMV。特に1993年に放送がスタートした「COUNTDOWN TV」の人気によってMV需要は、一般的な音楽ファンにまで一気に加速。

毎週のようにミリオンセラーの楽曲が生まれた音楽バブル到来による潤沢な予算も相まって、海外のクオリティに迫る作品が数多く登場した1990年台は、まさに邦画MVの黄金期。グラフィックデザインや映画の世界との交流や、CG・アニメーションを手がけるクリエイターも増え、現在のMVの原型が出そろったのもこの時期です。

平松愛理×岩井俊二

第34回日本レコード大賞を受賞した平成の大ヒット曲『部屋Yシャツと私』。

シンガーソングライターの平松愛理さんが、1992年3月21日にリリースした本曲は、歌詞を原案にした同名映画も制作されるなど一世を風靡し、ミリオンセラーを記録しています。

(ポニーキャニオン 公式)

この歴史的な楽曲のMVを手がけた岩井俊二さんはミュージックビデオの仕事からキャリアをスタートさせてており、ZARDなどのビーイング系アーティストをはじめ、サザン・オールスターズや大事MANブラザーズバンド、近年ではAKB48や新山詩織、DAOKOなど、数多くの有名ミュージシャンのMVを手がけています。

『リリィ・シシュのすべて』や『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』など、現在では日本を代表する映画監督である岩井俊二さんの映像センスを垣間見える作品になっています。

スピッツ×吉田大八

今年の3月に公開された『騙し絵の牙』(2021)や『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007)、『羊の木』(2018)などヴァリエーション豊かな映画作品を手がけ、『桐島、部活やめるってよ』(2012)では日本アカデミー賞の最優秀監督を受賞している吉田大八監督。

CM制作会社でディレクターと活躍した後、映画界に参入する前にスピッツのミュージックビデオも制作しています。

(『愛のしるし』公式)

1999年3月25日発売の『愛のしるし』。草野正宗さんが女性ボーカルデュオPUFFYに提供し、前年に大ヒットしていた同名曲のセルフカバーです。コスチュームが様変わりしていくメンバーと美女の組み合わせがインパクト抜群。吉田大八監督特有のいい感じに脱力した世界観が堪能できます。

(『流れ星』公式)

1999年4月28日発売の『流れ星』。この曲も1996年に辺見えみりさんに提供されており、その3年後に新録曲としてアルバム『花鳥風月』に収録される際に制作さたのが上のMVです。宇宙空間で弾き語りをする草野さんの姿と草原で演奏するバンドのつながりが良い意味で意味不明。シュールな世界観が最高です。

記事を書くにあたって久々に見返してみたのですが、やっぱり吉田大八監督ならではだなぁとしみじみ実感した作品です。

相川七瀬×堤幸彦

『金田一少年の事件簿』や『TRICKシリーズ』『20世紀少年シリーズ』など話題作を次々と発表し、映画とテレビドラマの世界に大きな革新をもたらした堤幸彦監督。制作会社でテレビ番組のディレクターとして着実に地歩を固め、80年代の後半から現在まで、筋肉少女隊、V6、大塚愛、レミオロメンなど数多くのトップミュージシャンたちのMVを手がけています。

そんななかでも当時の音楽ファンに鮮烈な印象を残したのが、90年代をロックに彩った女性シンガー相川七瀬さんのMVです。

1996年10月7日発売の『恋心』。相川なんさんの5枚目となるシングル作は、自身初のミリオンセラーを記録し、人気爆発のきっかけとなったメモリアルな楽曲です。モノトーンの映像で、テロリストに扮した相川七瀬さんが銃を放ちながら微笑む姿が強烈インパクトを残す作品です。

心に傷を負った少女の繊細に揺れ動く心理を見事に表現し、センセーショナルな話題を呼びました。

1997年5月1日発売の『Sweet Emotion』。相川七瀬さんならではのダークで艶っぽい世界観とポップなメロディーのバランスが絶妙な大ヒット曲。ライブビデオ風の臨場感あふれるミュージックビデオで、バブルが弾けているのにバブル感のあった90年代の音楽シーンの雰囲気がよく伝わる映像になっています。

まとめ

当時の邦画ファンには、さまざまな思い出が胸をよぎる懐かしい楽曲もあったのではないでしょうか。

90年代の邦楽MVの担い手は、レコード会社の映像部にとどまらず、大手のMV制作プロダクション、デイレクターズカンパニー、プロデューサーズカンパニーが多数設立された時期でもあり、パソコン一台で個人制作も可能となった現在とは異なり、大人数のチーム編成であることがほとんどだったようです。

音楽産業の動向、映像機材の技術革新、インターネットの台頭とともに、めまぐるしい変化が訪れた2000年代以降のMVシーンでは、全世界的に映画監督とのコラボレーションが加速化しているので、洋楽も含め面白い事例を見つけたら今後も継続してご紹介していくつもりです。お楽しみに!

この記事を書いた人

ZOOREL編集部/コスモス武田
慶應義塾大学卒。大学時代から文学や映画に傾倒。缶チューハイとモツ煮込みが大好き。映画とマンガと音楽が至福のツマミ。

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