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【ディレクター安藤による映画レビュー 】難解?SF映画『ミスター・ノーバディ』

【ディレクター安藤による映画レビュー 】難解?SF映画『ミスター・ノーバディ』

こんにちは。エレファントストーンのディレクター安藤です。

僕は休日何も予定がなくて困った時、必ず映画を観てしまうくらいの映画好きです。とりあえず昨年は映画500本以上見ました。(Filmarksより)
好きなジャンルは特になく、オールジャンル。感染症対策のために家で映画を見る機会も多くなり、気になった映画を一日に5本連続で観るなんてこともあります。

映画は、自分が映像を制作する上での新しいアイデアを見つけるものであったり、生きる上での新しい価値観を発見したり、気持ちを慰めてもらったり、作業用BGMになったり映画を通して他人の自分の気持ちを伝えるためのコミュニケーションツールにもなったり…自分にとって無くてはならないものだと思っています。

特に最近は、既に観た事がある映画を見直すことにハマっています。見返してみると、最初はピンと来なかった映画も面白く感じたり、意外なところでジワッと泣けたり、前に見た時との印象の違いに面白さを感じます。

今回は、最近見直した映画で「やっぱり一番好きだな」と思う個人的ベスト映画を紹介します。

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12通りの人生を生きた男。壮大なスケールで描き出されるパラレルワールド『ミスター・ノーバディ』

『ミスター・ノーバディ』は2009年に公開されたジャコ・ヴァン・ドルマル監督によるSFファンタジー映画。不死が実現した2092年の世界を描いた作品です。

あらすじ

2092年の近未来。人々は細胞を永久再生させることにより不死を手に入れていた。そんななか、118歳のニモ(ジャレッド・レト)は、永久再生化をほどこしていない唯一の人間。ニモは死を目前にしており、「人間が死ぬ姿」を一目見ようとその様子は全国に生中継されていた。そんななか、1人の新聞記者が彼のもとを訪れ、人間が不死を手に入れる前の世界について質問する。それをきっかけにニモは、自分の人生を振り返る。

引用:https://youtu.be/T4egiI99Ee4

簡単に言えば、パラレルワールドを題材にしたSF映画。

情報元は怪しいですが、監督は「脚本作りに6年、撮影に6か月、編集に1年半」もかけたのだとか。どうしてそんな時間をかけられる?総製作費50億円!?と思いを張り巡らせましたが…「好きな映画はなんですか?」と聞かれた時、迷わず答えたいのがこの映画です。

何故なら、物語の構成や編集、演出が「完璧」なんです。ここからは、僕が思う『ミスター・ノーバディ』の魅力を紹介していきます。

(2021年に同名の映画が最近公開されていますが、まったくの別物です。)

映画の魅力①「Don’t Think.Feel」

この物語のストーリーは、主人公であるニモが一人のジャーナリストに最期に死を迎える人間として取材を受け、自分の人生を振り返ることから物語が始まります。両親の離婚によって父親についていくか母親についていくか、究極とも言える選択を主人公は選択します。ですが、映画ではどちらにも歩んだような人生が語られていきます。

この2つの選択と3人の運命の女性と出会い、さらに人生の分岐を生み出し、様々なストーリーが複雑に絡み合いながら物語が展開されていきます。どれが主人公にとって真実のストーリー/人生なのか理解できない構造になっているのです。

そして、「鳩の迷信行動」や「バタフライ効果」「エントロピー効果」「ビッグクランチ」など…SF映画でよく引用されているような知的好奇心をくすぐるテーマが随所に盛りこまれています。ある意味この映画を“理解”するために用意されているヒントなのだと思うのですが、真実がわかりづらいストーリーと哲学的なテーマの引用によっていわゆる“難解”映画と言われがちな世界観を作っています。

非常に考察に熱が入る映画だと思います。実際に観た人の様々な解釈や考察をWeb上で観ることが出来ます。そのテキストをみて、この映画を理解しようとするのも一興ですが、そんな難しいことは頭の片隅に置いておいて、「何も考えず映画を見ろ!」と言いたいです。

僕は、実はこの映画で伝えたいメッセージなんて一切無いんじゃないかと思っています。この映画の魅力は、心地よく壮大な映画体験にあると思っています。

映画の魅力②「高度な映像編集とそのバランス」

この映画の最大の魅力は、複雑な構造をしていながらも何故か違和感を感じずに観ることができる高度な映像編集だと思っています。飛躍的なシーンの繋ぎにも違和感を感じず映像として完璧に纏まっています。

映画の冒頭では、鳩の迷信行動について語られていて、多くの人は「なるほど、これがこの映画を読み解くヒントなのか!」と頭に入れながら視聴を続けるでしょう。

鳩のシーンが終わると突然主人公が死体となって現れます。
目を覚ましたかと思えば水底に沈もうとしている車に閉じ込められている主人公。
急いで主人公が水上に上がろうとすると、そこはホテルのバスタブ。
そこで主人公は銃口を向けられており、そのまま頭を撃ち抜かれる。
その衝撃で目を覚ましたかと思えば、主人公は宇宙船に乗っている。
そして、大きな衝撃とともに乗船した船が爆発してしまう……。

初見では絶対に理解できない情報量の多いシーンの数々。この飛躍的とも言える場面の切り替えは、映画の本編約2時間半の中で度々起こります。でも、何故か混乱せずに観ていられる……。

各シーン異なる時間軸で繋がれているはずなのに、各シーンが奇妙にリンクしており、2時間弱ありながら、そのリズム感がずっと保たれているのです。そのバランスを上手く機能させているのは、映像編集の力だけではなく簡単にも見える巧妙な演出にあると僕は思います。

楽曲の効果的な使い方、巧みな映像編集による静と動のコントラストと視線の誘導、あえて過剰な演出は抑えてシンプルに伝えながら強調したいところは印象的なギミックを使うなど、ものすごくバランスが取れています。ただ単にシーンをつなぎ合わせることはなく、なぜか論理性の高い演出の数々です。

この映画を見終わった自分は「なんか、すごい…壮大で映像美がすごくて良かった。でも難解すぎてわからない。言語化が難しい。ラストはなに?いわゆる夢オチ?主人公の妄想?老人の戯言?」と半ば混乱状態でしたが、それで良いと思っています。

この映画は他の映画では味わえないような不思議な体験ができる映画なんです。

『ミスター・ノーバディ』は映画を作るときに参考にしたい一本

映像制作に携わる人間として、どうしても観る映画に対して制作側の視点を想像しながら観てしまう癖があります。劇場で映画を見ているときも、「この演技自然じゃないな」とか「この展開強引じゃない?」とか一つでも疑問に思うとどうしても集中して視聴できなくなってしまいます。だからこそ、自分が夢中になって見れるような映像体験ができる映画を常に求めているところがあります。

気持ちが高ぶる最高のショットを現場で撮影したとしても、他のシーンが上手く撮れていなければ、編集時に台無しになってしまうことってよくあります。映像を制作している立場として一番怖いなって思ってしまう部分です。私が撮影や編集の中で一番気をつけているところであり、最終的なバランスを想像しながら映像を制作しています。

『ミスター・ノーバディ』は、そういう意味ではバランスが取れた映画です。自分がもし映画を作るとしたら参考にしたい一本です。

余談ですが、この記事を執筆する中で、この映画の様々な解釈をWebやSNS、YouTube等でレビューする人たちを観てみました。こういう解釈もあるのかと新しい発見も多々ありました。

でもその中で、寂しく思うのは、検索すればいくらでも他人の意見や感想が目に入る時代で、自分の考えを持つことってなかなか出来ないなって思ってしまいます。
ただ、そんな社会だからこそ、自分が見たものを自分で脳で考えることが大事ですよね。

まとめ

個人的ベスト映画『ミスター・ノーバディ』を紹介させていただきました。SF映画の隠れた傑作だと思っているので、同名の作品と間違えず視聴してほしいです。

この映画は、他に類を観ない唯一無二の映画で、これから先こんな作品見れないんだろうなと思っています。僕の記事でこの映画の魅力を十分に伝えきれてるとはハッキリ言って思っていません!が、とにかく一度観てください。

以上、ディレクター安藤による映画レビューをお届けしました。


 

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この記事を書いた人

安藤興作
エレファントストーンのディレクター

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