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1990年生まれ。TV-CMが好きで映像業界に飛び込んだディレクターの語る日本のTV-CMの歴史

1990年生まれ。TV-CMが好きで映像業界に飛び込んだディレクターの語る日本のTV-CMの歴史

こんにちは。エレファントストーンディレクターの久岡です。

先日千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館に遊びに行ったのですが、そこの展示の一角に昔のテレビスタジオの再現コーナーがありまして、そこで1960年代〜1970年代後半までの日本のTV-CMが紹介されてたんですね。

それを見て昔、汐留のアドミュージアムに入り浸ってた頃を思い出しまして、TV-CMについての歴史を自分なりにまとめてみたいなと思った次第です。

TV-CMは言わずもがな、多くの企業が製品やサービスの宣伝をするために利用する広告手段ですね。長年にわたって進化し、多様な手法が試されてきました。この記事では、日本のTV-CMの歴史と傾向について、過去の実例を交えながら紹介していきたいと思います。

余談ですが、エレファントストーンのディレクターは結構、映画をバックボーンに持つ人が多いんですね。しかし私はTV-CMがやりたくて新卒で映像業界に入って経験を積んできた人間なので、エレファントストーン社内では少し珍しいCM畑出身のディレクターでして、そんなこともあり、「社内でやるなら私だ!」と意気込んで執筆させていただきます。

日本で初めてのTV-CM

日本初のTV-CMは、精工舎(現セイコーグループ株式会社)のCMです。日本テレビが1953年8月28日に民放で初めて放送を始め、そのタイミングで日本で初めてのTV-CMも放送されました皆さんも何かの際に見た記憶があるのではないでしょうか。

ニワトリが時計のぜんまいを調節するアニメーション。このCM、初とは思えない仕掛けもあって、完成度がかなり高いです。しかも「時報を兼ねている」んです!

「時報を兼ねている」というのは、映像の終わりに「精工舎の時計が7時をお知らせいたします」というナレーションが入っているというものでして、これ、今やっても話題になりそうだな、と思うような仕掛けです。しっかり時計にかかっている内容なので最高です。見たことのない方は、セイコーグループ株式会社のYouTubeチャンネルで見れるので、ぜひ見てみてください!

ちなみに本当の初お披露目は、フィルムトラブルで3秒で中止されてしまったんだそうです。

1950年代〜1970年代のTV-CM

セイコーさんのCMもそうですが、この時代はとにかく、遊び心が満載です。そもそもTVというものが初めてな訳です。

画が動くということが楽しい時代。ストレートな表現で明るいものが多い印象です。今じゃ考えられない感覚ですよね。でもその感覚が世の中に強烈なインパクトを残すと共に面白いTV-CMを放っていきました。

たとえば、洋傘メーカーの株式会社アイデアルのCMです。内容自体は非常にシンプル。洋傘を持った植木等さんがカメラに向かって「なんであるアイデアル」というもの。動画を引用できないのが申し訳ないのですが、調べるとすぐ出てくると思います。シンプルが故に言葉が印象に残るCM。そして時代性で特筆すべきは、このCM、5秒なんですよ!

TV-CMというと15秒か30秒のイメージが強いと思いますが、かつては5秒という枠が存在したんです。今、YouTubeなどでは6秒CMなんかが増えているので、時代は繰り返すのか?と、非常に面白いポイントです。5秒のTV-CMがあったというのは、意外と知らない人も多いのではないでしょうか。

そしてこの時代の中盤からカラーテレビが普及し出してきて、CMソングなどが出てくるようになり、一気にTV-CMが進化していきます。CMソングといえば、今でもお馴染みの文明堂さんの「♪カステラ一番、電話は二番、三時のおやつは文明堂〜」もこの時期。

明治製菓さんの「♪マーブルマーブルマーブルマーブルマーブルチョコレート」とかもそうですが、企業名や商品名連呼のCMは最近の流行と思われがちですが、考えてみれば、この時代からあったんですよね。マーブルチョコも動画を引用できないのが申し訳ないのですが、調べるとすぐ出てくると思います。

後半になってくると特徴的だな、と思うのがコピーの存在です。森永製菓さんのエールチョコのCMでは「♪大きいことはいいことだ」と歌うんですね。マーブルチョコの例に倣えば、「♪エールエールエールチョコ」とかでも良いと思うんですが、そこには下記のような逸話がありました。

広告企画会議では、商品コンセプトである「従来の板チョコより一まわりほど大きくて値段は50円のお徳用」を、どのようにインパクトのある広告に展開するかが検討された。さまざまな議論の末、「今までの日本は、小さな幸せ、慎ましやかな幸せが美徳とされてきた。これまでにない速さで経済大国の道を歩みつつあるこれからは、もっとのびのびと胸を張って、大きいことはいいことだと主張しよう」という方向が決まった。

 

そうして誕生したコマーシャルが、当時、型破りでひょうきんな指揮者として人気を博しつつあった山本直純を起用した「大きいことはいいことだ」のテレビCMだった。経済の上昇気流に乗った日本を象徴するように、気球の上から1300人もの大群衆を指揮する山本センセイ…。ヒットするCMの裏には、キャラクターの魅力とともに、時代を的確にとらえた視点とメッセージがある。」 

 

引用元:https://www.morinaga.co.jp/museum/history/detail/product/100

このように、単に商品の認知のためのものだったTV-CMにメッセージ性が生まれていきました。このくらいの頃からコピーという存在が重視されるようになった印象です。

1980年代〜1990年代のTV-CM

1980年代のCMの傾向は「時代性と共感」にあるかな、なんて思っています。バブル崩壊前、私はバブル崩壊後の世代ですが、その日本の盛り上がりがCMにも影響を与えているような気がしています。

たとえば東海旅客鉄道株式会社の「HOME-TOWN EXPRESS(X’mas編)」。山下達郎さんのクリスマスイブが流れる中、新幹線のホームで待つ深津絵里さん。いつになっても現れない恋人。もう来ないと思ったら、ダンスをしながらふざけて登場。思わず口パクで「バカ」。

ここですよ! ここ! 口パクで「バカ」。

この時代に生きていないので、あくまで外側からの視点ですが、この時代を象徴するようなシーンだと思います。そしてこのCM、「恋人同士でクリスマスを過ごす」という新たな文化の誕生のきっかけにもなっており、文字通り社会現象を巻き起こしています。凄くないですか? この時代ってCMが文化を作っちゃうんです。これも引用できないんですが、ぜひ検索してみてください。

「会うのが、いちばん」というコピーの元、コミュニケーションツールとしての新幹線を訴求するために展開されたCMだったんですが、感染症が流行する中でまた、深津絵里さんが約33年ぶりにJR東海さんのCMに出演で「会うって、特別だったんだ。」でこの考え方が復活することになりました。

時代って面白いですね。1990年代。私は1990年生まれなので、ここの時期のTV-CMを小さい頃にぼんやりとみて育ちました。子どもの頃からの印象値で総括すると、この時代は「楽しい」。この時代のTV-CMのセンスが非常に好きです。バブル崩壊の影響なのかはわかりませんが、イケイケ過ぎず、クスッとなれる、そんなCMが多い印象です。

たとえば日清食品株式会社のカップヌードルの「マンモス」のCM。マンモスを原始人の集団が追いかけるのに捕まえられない。そこに「Hungry?」の文字とナレーションが入ってカップヌードルが出てくる、というシンプルな構造なんですが、当時はCG技術も発達していないので、動物や原始人はコマ撮り、背景素材は別撮りで撮影されています。このコマ撮りの感じもカートゥーン系のアニメをみているような感覚になって楽しいんですよね。

下記でCMディレクターの中島信也さんがこのCMについて述べていますが、そこで1990年代について

CMの世界におけるディレクター万能の時代から、CMプランナーやアートディレクターがディレクターとタッグを組んでいく時代に移っていったことを紹介しました。1990年代のことです。

 

引用元:https://www.advertimes.com/20221128/article402398/?utm_source=advertimes&utm_medium=article&utm_campaign=article402761

と語っています。この時代、私は作り手になるなんて夢にも思っていなかったのでそんな背景はつゆ知らずではあるのですが、そんなタッグの時代のCMを見て育った私が、今、自分でプランニングして自分でディレクターをするというスタイルで仕事をしているのがどこか不思議な感覚になります。どっちもすごいから、どっちもやりたいとなったんですかね。

2000年代のTV-CM

2000年代はCM多様性の時代だったのかな、と思います。私個人としては物心もしっかりついてきて、人生で一番TV-CMが好きで、ただ楽しんでいた時代でした。ここまでご紹介してきた多種多様な流れを組むCMが、流行っては移り変わり流行っては移り変わりしていった印象です。

その中でも私は、
・株式会社リクルートホールディングス ホットペッパーの洋画の吹き替えテイストのシリーズ
・日本コカ・コーラ株式会社 ファンタの先生シリーズ
・サントリーホールディングス株式会社 アミノ式「燃焼系」シリーズ
なんかが大好きでした。

この辺もちょっと引用はできないのですが、ぜひ調べてみてください。なんの気なしに楽しんで見ていた訳なんですが、上記って1990年代から今もなお活躍されている方々が制作されているんですよね。それこそ、中島信也監督とか株式会社ワトソン・クリックのクリエイティブディレクターの山崎隆明さんとか、あげ出したらキリないのですが・・・。

私たちの世代は、よくお笑いで「ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるず」を見て育った。なんて言いますが、ダウンタウンさんもウッチャンナンチャンさんもとんねるずさんも現役で面白くて今もずっと好きです。それと同じで、今振り返って見ると今50〜60代の世代の方々はこの頃が全盛期だったんじゃないかな、という印象があります。いや、今も本当にスゴイ人たちなんですけど。

おそらく今私と同世代のクリエイターは、そこら辺の方々を見て育ち、ちょっとだけ同じ現場になったりして、それこそ「わあ、ダウンタウンさんと共演してる〜」みたいな感覚になったりしながら、背中を追い続けているんじゃないかな、なんて思います。

近年のTV-CMの特徴

撮影技術、機材、CGアニメーションの質の向上などTV-CMの表現方法は更に広がっているのですが、そういった面よりも、近年のTV-CMの大きな傾向として私が感じるのは、今までブラックボックスだったTV-CMの効果を測る技術が伸びてきたことで、「TV-CMがデータドリブン化し始めた」ということです。

データドリブン、というところで印象に残っているのが、ノバセル株式会社のウェザーニュースの例です。エレファントストーンに入社する前ちょっとしたご縁があって、ノバセルのクリエイティブディレクター 西崎健太郎さんにお話を伺う機会があったのですが、そこで教えて頂いた手法が非常に衝撃的でした。

CMのABテストなどを駆使して、アプリのダウンロード数を300万件程増加させた例なのですが、クリエイティブを訴求違い、エリア違いなどで約120本も作り、テストを重ねて最適解を求めていったらしいです。当時のクリエイティブは見つけられなかったのですが、下記も37種のCMを天気やエリアに合わせて放送するという手法をとっているようです。

全てのTV-CMがそうなっていくかは分かりませんが、TV-CMといえば大企業が大きな予算でやるもの、という時代から、大企業も含めてスタートアップ企業などが戦略的に予算を使って成功を掴みに行く時代にシフトしていく、今はまさに分かれ目の時期なのかもしれません。

まとめ

いかがでしたか?

「温故知新」などと言いますが、こうやって歴史を紐解いていくことで、新しいアイデアが生まれることってあるのかもしれません。それに、自分の好きなジャンルの歴史を掘り下げていくのって、単純に楽しいですよね。

上記で紹介した以外にもTV-CMには面白い歴史やトレンドがまだまだたくさんあると思いますので、皆さまぜひ探索してみてください!

この記事を書いた人

久岡信也
エレファントストーンのディレクターです。

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