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VR社会を予見した1935年の小説
「Pygmalion’s Spectacles(ピグマリオン劇場)」
VR(仮想現実)という言葉が波及する前、我々はこれほどまでにVRが日常に定着するとは思っていなかった。
なぜかというと、VR=3Dに飛び出す、という認識であったし、そうした飛び出す装置、ヘッドマウントディスプレイというものは何十年も前から存在していたからだ。しかし、その価格帯であったり画素数であったりで、一般的な人々が常用するには耐えがたく普及することがなかったからだ。
だが、小説やゲームなどでこうした社会を予見していた作品はあった。
VRの最初のアプローチといわれるのが、スタンリイ・G・ワインボウムによる1935年の小説「Pygmalion’s Spectacles(邦題:ピグマリオン劇場)」だ。
一説を見てみよう。
“How? How? But simply! First my liquid positive, then my magic spectacles. I photograph the story in a liquid with light-sensitive chromates. I build up a complex solution—do you see? I add taste chemically and sound electrically. And when the story is recorded, then I put the solution in my spectacle—my movie projector. I electrolyze the solution, break it down; the older chromates go first, and out comes the story, sight, sound, smell, taste—all!”
直訳すると「魔法のメガネ。物語を感光性クロメートを含む液体で撮影します。複雑な解決策を作り上げます。ストーリーが記録されたら、その解決策を私の映画のプロジェクターに入れ、解決策を電気分解して分解し、古いクロメートが先に進み、ストーリー、視覚、音、香り、味がすべて出てきます」
つまり、ゴーグル型のVRシステムが登場し、視覚、嗅覚、触覚を記録してゴーグルで体験するといったものだ。
今から100年近く前の作品でこのようなアイテムが出てくることは非常に珍しい。事実邦題でSpectaclesは劇場と訳されているが、本作ではこれはメガネ、つまりVRのゴーグルとしての意味で使われている。邦題をつける際に、翻訳者がその未来の世界観についていけなかったことが想像できる。
さて、時代は2019年となり視覚で訴えかけてくるVRは定着した。映像を見るだけから、音楽が付き、現代の映画館では「4DX」といい、シーンによって水が飛び出す、匂いが出るといった工夫も少しずつ定着しかけている。遊園地さながら、席が揺れる、震える、風が吹くといった仕組みを備えるシアターもある。
映像技術は視覚で見るだけのものから、体感していくものへと進化している。まさしく小説の通りである。
これから先100年後の映像技術はどのようなものなのだろうか。もしかしたら、現代の小説にそのヒントがあるのかもしれない。
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