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POV形式に挑戦した映画の傑作3選
映画の映像編集、撮影手法、視聴環境は、テクノロジーの進化とともにさまざまな革新がなされてきた。
携帯で撮影された新しいスタイルの映画について取り上げた前回に続き、今回はPOVスタイル(Point Of Viewの略。一人称による主観ショット)で撮影された作品の大胆な挑戦をいくつかご紹介したい。
POV形式について詳しく見たい方とその動画例はこちらの記事を参考にしてほしい。
ハードコア
ロシアの新人監督イリヤ・ナイシュラーが、映像の常識を打ち砕いた新次元のSFアクションムービー。ロシア・アメリカの共同製作で2016年に発表された。
マスク型のアクション用カメラ「GoPro」を主演男優のヘッドに装着して全編が撮影された本作は、これまでにない革新的な映像表現がなされており、観る者の度肝を抜く。
ストーリーは、身体をサイボーグ化された主人公が、愛する妻と自らの記憶を取り戻すためにクレイジーな近未来で壮絶な戦いに身を投じる、というもの。
「映画は”見る”から”同期”する時代へ」という作品のキャッチコピーに偽りはなし。
FPSゲーム(一人称視点で進行するバトル形式のシューティングゲーム)を現実に体験するような驚異的な臨場感は、自分が主人公になったかのような錯覚すら覚える唯一無二のもの。ぜひその目と体で新時代の映像体験を味わってほしい。
なお、イリヤ・ナイシュラー監督はパンクロックバンドBiting Elbowsのフロントマンでもあり、本作に先駆け「Bad Motherfucker」という楽曲で同じスタイルのMVを撮っている。
その映像はこちら。
(オフィシャルMV)
クローバーフィールド/HAKAISHA
2008年に全米公開された、モキュメンタリ―(疑似ドキュメンタリー)スタイルのSF怪獣パニック映画。
主人公ロブの送別会を友人がセルフカメラで撮影中に、突如なぞの巨大生物が現れニューヨークの町全体を破壊しはじめる、というストーリー。
冒頭に流れる「本編はアメリカ国防総省が保管している記録映像である」というテロップのB級感がたまらないが、「POVスタイルの最高傑作」との呼び声も高いその映像表現はまぎれもない一級品!
興業的にも大きな成功をおさめた作品でシリーズものとして、続編『10 クローバーフィールド・レーン』(2016年公開)、前日譚『クローバーフィールド・パラドックス』(2018年NetFlix公開)、漫画『クローバーフィールド/KISHIN』(web KADOKAWAより全4話配信)がある。
目の前でゴジラが暴れているようなリアルタイムの恐怖感や不安・混乱を体験できる革新的なパニックムービーなので、ぜひ視聴してみてほしい。
サウルの息子
1944年、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所のなかで、同胞であるユダヤ人をガス室に送るゾンダーコマンダー(囚人の死体処理班)の任務に就く一人のユダヤ人男性の祈りと絶望を描いた衝撃作。
純粋な一人称視点こそ採用されてはいないが、長まわしを駆使し終始主人公に密着した斬新なカメラワークによって、POVスタイルさながらのリアリズムを追求した圧巻の体験型ムービーとなっている。
ハンガリーのネメシュ・ラースロー監督は、35mmフィルムの4×3の狭いフレームサイズで撮影を敢行しており、その映像は独特の退廃的な色調を帯びた唯一無二のもので、とても長編デビューを飾った新人の手によるものとは思えない。
夜霧のなかを歩くような、強くぼやけた風景。そこから、生き地獄というよりほかにないホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の現実が次第に浮かびあがっていく冒頭のシークエンスは、映画史にのこる未曽有の映像表現となっている。
極限状況に置かれた人間の尊厳を問うテーマと相まって、またたく間に映画界を震撼させた本作は、2015年のカンヌ国際映画祭でグランプリに輝き、第88回アカデミー賞外国語映画賞も受賞している。
決して気軽な観賞を許すタイプの映画ではないものの、映像に関心のある人ならば絶対に観て損のない作品なので、ぜひその目で確認してみてほしい。
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