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年賀ムービー『NON-STOP』をつくるまで

年賀ムービー『NON-STOP』をつくるまで

こんにちは。ZOORELを運営するエレファントストーンの深津です。

みなさん、今年の年賀ムービー『NON-STOP』はもう見ていただけたでしょうか。まだ見ていない方は今すぐ見ていただけると嬉しいです。もうすでに見ている方は、ぜひもう一度見ていただけると嬉しいです。ということで、今回は私が担当した今年の年賀ムービー、『NON-STOP』について、どんな経緯で企画し、どんな茨の道が待っていたのか?年賀ムービーの裏側について赤裸々に語っていきたいと思います。

そうだ、テクノをつくろう。

エレファントストーンは、毎年1月に新年のご挨拶となる年賀状の代わりに、年賀ムービーを制作しています。社内メンバーの立候補or指名を受けてディレクターが決まるのですが、今年はというと…。公平なルーレットという名のAfter Effectsによってつくられた高クオリティな動画が全社会議の際にスクリーンに映し出され、気づいたら「深津」という文字だけがルーレット上に複数並んでいて、僕がディレクターを務めることが決定しました。(前年度の働きを見て、マネージャーの皆さんが指名してくださったのだと思います。)

「まさか自分が!?」という驚きもありましたが、実はなんとなく「今年は自分が指名されるだろう」と、1ヶ月くらい前から第六感が反応していました。ですので、エレファント会議で指名される前から実はリファレンスを集めたり、ぼんやりと行き帰りの電車の中で企画のメモをしたりしていたのです。そのメモの中の一つに「NON-STOP」というワードがありました。当時ヘビーローテーションしまくっていたKRAFTWERKの『Music Non Stop』という曲を聴いている時に書いたメモでした。

「そうだ、テクノをつくろう」そんな想いで企画をスタートさせました。

年賀ムービーとして1年の始まりをお祝いできるような、映像という大きなキャンバスの中で自分の好きを散りばめられる。であれば、「自分の大好きなテクノをつくろう。」そう思いました。日頃の映像制作はクライアントワークのため、いわゆるアート作品のように自分のやりたいこと、描きたいことを120%落とし込むことは正直難しいです。そんな中、年賀ムービー制作という最高の切符を手に入れることができたのですから、自分のやりたいことは全部やりたいですよね。テクノをつくる以外にもやりたいことが頭に無数に浮かび上がってきました。(風呂敷を広げ続ける行為は本来の納品日である12月末になってもやめられませんでした)

そんなこんなで、10月末ごろにはぼんやりとテクノをつくろうとだけ思い描き、通常の業務を進める毎日が過ぎていきました。

テクノとエレファントストーンの共通項をテーマに。

気がつけば秋が終わろうとしていた11月中旬。
担当ディレクター発表から1ヶ月後の全社会議で企画と進捗を発表しました。ここで決まっていたことは映像全体の流れと演出の2つでした。

今回の年賀ムービーで描きたかったこと、それは止まることなく動き続けているエレファントストーン、そして未来の姿でした。自分が入社した頃から今までを振り返る中で感じたことがきっかけとなりました。
2021年に入社して、まだ4年。もう4年とも言えると思うのですが、良い意味で「違う会社にいるのかな?」と思う感覚になるくらい変化を毎年感じていました。会社として事業や規模が拡大するフェーズにいるので当たり前だとは思うのですが、それにしても会社のシステムや事業、チーム編成など毎年のように会社と自分に変化がありました。止まることなく、動き続けるエレファントストーンという存在。その存在を主人公として捉え、想像もつかない2025年以降のエレファントストーンの姿を描こうと思いました。もちろんテクノに合わせて。

ここで「テクノとどう合わせていくのか?」と一瞬考えたりもしましたが、そもそもテクノという音楽の性質上、相性はいいと思っていました。テクノという音楽は、リズムの反復。そのリズムの反復と音数やメロディの変化によって生み出されるグルーヴが心地よく、聴く人を踊らせる音楽へと昇華されていくのだと思います。同じような音(リズム)が聞こえながらも気づけば心地よいグルーヴが生み出されていく様は、毎年同じ時間が流れながらも変化しつづけるエレファントストーンの時間を表現するにはもってこいだと思いました。

さて、いよいよつくりたい映像の全貌が見えてきました。と同時に色々とやるべきことの多さに怖気付いたのも事実です。「生成AIが使えるかも?」「音楽誰につくってもらう?」「そもそも制作期間短いんじゃないか?」そんなことを思いながらも、11月の後半。気づけば完成まで1ヶ月を切っている状態でした。

制作開始!難航するAI生成。

「もう前に進むしかない!」という思いで制作体制を整え、早速制作に取り掛かりました。

今回の映像のキーとなるアニメーションを担当したのは、生粋の電気グルーヴファンでもある社内の大先輩、横山さん。入社した当初からアニメーション制作で困った時に何度も助けていただき、何より音楽・映像的な趣味嗜好が近いこともあったので、今回の映像には絶対参加していただきたいと思っていたのです。
まず取り掛かったのは生成AIのサンプルづくり。横山さんをアニメーション監督として、作業の一部をEST(ElephantStone (Thailand) Co., Ltd)のパートナーさんに入っていただいきました。理想となる生成AIにハマりそうなソフトをいくつか検証していただき、Luma AIを使うことに決定。

サンプルでは2代目のエレファントストーンロゴと現在のロゴをモーフィングさせたらどうなるのかを検証。ある意味AIらしいサンプルも上がってきましたが、基本的にはイマイチなものばかりでした。
そこで、使用する箇所を初代ロゴ→2代目ロゴに絞り、本格的に精度を上げるためにプロンプトを練り直し、再考していきました。そして実際に使用した箇所がこちらです。

人間がつくるモーフィングではあまり出てこないであろう動き、そして“生命体らしい”動きをしているカットだと思います。

音楽どうする問題。

今回の年賀ムービーで大きな役割を果たしている音楽ですが、秋が終わり、冬が本格的に始まり出す時期まで誰に制作してもらうかまだ正式には決まっていませんでした。「テクノをつくる」と言い出したものの、まさかここまでギリギリになるとは自分でも思っておらず、内心ビクビクしていました。
つくってもらいたい理想のアーティストなどを書き出し打診してを何回か繰り返した11月の最終週、「この人たちだ!」とパッと閃いたのです。そのアーティストとは『Frog3』でした。

私はクラブという場所が大好きです。あの非日常空間とも言える暗闇で、大きな音を浴びながら踊る時間がたまらなく好きなんですよね。「誰に頼めばいいんだ」と頭を悩ませながら、自分のスマホのライブラリを見返し、様々なパーティーの写真や動画をなんとなく漁っていました。その時目にしたのがJUN INAGAWAさんが主宰していた「MAD MAGIC ORCHESTRA」というパーティー。JUN INAGAWAさんのパーティーでは、同年代ながらもケミカルブラザーズやアンダーワールド、電気グルーヴなどのアンセムが流れていたり、メインフロアでは石野卓球さんや大沢 伸一さんなどのレジェンドDJが回していたりと、いつも刺激を受けていました。

当時の写真や動画を見返すうちに思い出すあの高揚感。そう、自分の大好きな音楽を知っていて、かつ独自の世界観をもっているJUN INAGAWAさんたちに音楽をつくってもらいたい、そう強く思ったのでした。(JUN INAGAWAさんはFrog3という名義で音楽制作をおこなっています)

いざ、テクノをつくる。

JUN INAGAWAさんが所属する4人組のエレクトロミュージックユニット、Frog3さんへ早速アプローチし、お返事をいただくまでの1週間。まるで永遠のように感じたのですが、受けてくださるとご連絡をいただき、ホッとしたのも束の間。すでに12月になっていたので翌日すぐにWebでMTGを実施し、プロジェクト全体の企画と音楽の方向性について共有するお時間をいただきました。Frog3の皆さんも自分と同年代だったため、ただ音楽制作を依頼するだけではなく「一緒に制作したい」という気持ちをお伝えしました。

初回MTGの様子

正式にFrog3さんが音楽を制作してくださることが決まってからのスピードは凄まじいものでした。翌週にはラフ版が届き、出先の訪問帰りに歩きながら30回は聴いて、すぐにフィードバックをさせていただきました。ただ、このラフ版の時点でほとんど見えているゴールが共通だったので、あとは細かいニュアンスや意見の出し合いで絶対にいいものに仕上がるとは感じていました。

その翌週にはFrgo3さんたちのアトリエ、通称Frogハウスへお邪魔して対面でのやり取りをさせていただきました。オンラインだけでは絶対にわからない細かい部分のコミュニケーションや、何気ない会話からアイディアが発展していく様子は、まさに自分が思い描いていた制作環境。Frog3さんへは感謝してもしきれません。

Frgo3さんのアトリエ、通称Frogハウスでの制作風景

今回の音楽は、ほとんどアナログシンセサイザーを使用しています。僕たち20代は完全にネットや配信、オンラインが当たり前な世界で生きています。そんな20代の我々が対面で会話し、アナログシンセサイザーで手探りで制作していく様子はなんだか新鮮でした。リファレンスでケミカルブラザーズやアンダーワールドの名前が飛び交うその空間を思い返すと、この人たちに音楽をつくってもらって良かったなと今も感じます。
そうして、その後何度かブラッシュアップをおこない、楽曲が完成したのが12月の末。世間は年末ムード満載でした。

ついに完成!と思いきや大幅なブラッシュアップを行う、奇跡の3日間。

音楽制作も終わり、世間が年末休みのムードを醸し出していた12月28日頃。
音楽に合わせて映像の最終調整をおこなおうと思っていました。ただ、どこかで納得していない自分がいました。というのも、完成版を見るとわかると思うのですが、音にリンクさせるという大前提がある今回の作品で、ブラッシュアップ前のバージョンにはどうしても懐かしのリズムゲーム感の香りが漂っていたのです。「つくり直さないと」と思いました。もちろん年始最初の営業日に公開する映像なので、残された期日は数日。メインとなるシーンのつくり直しはコンテからのやり直しになり、アニメーション作業も1からおこなうことになります。でも、つくり直す必要があると思い、横山さんに土下座し(誇張表現です)、29〜30日でブラッシュアップという名の部分的なつくり直しをしたいと伝えました。(快諾してくれた横山さんには本当に本当に感謝です)

何かを捻り出そうと頑張って殴り書きしていたメモ

そこからはほぼ合宿のようでした。社内の先輩である坂内さんと西堀さんがエディターとして入ってくださり、絶大なサポートと共に、「どうすればもっと良くなるか」を話し合いながらコンテをつくり直し、アフターエフェクトで映像をつくっていく。そんな2日間が続きました。その期間で記憶に残っているのは、キーボードにこぼした差し入れのレッドブルと、栄養補給のために食べ続けたパンダエキスプレス。そして良いアイディアが思いついた時の高揚感だけです。文字通り限界になりながらも、横山さんをはじめとする先輩方の甚大なサポートのもと、無事に年内になんとか形にすることができました。

合宿状態の様子。左から強力なサポーター坂内さん、横山さん、深津

大幅なつくり直しになったことは自分の大きな反省です。ただ、この反省は絶対に次に活かすと心に決めている前提で年末の怒涛の制作期間を振り返ると、「妥協しなくて良かった」と心の底から思っています。

映像制作に締め切りは絶対に存在します。その締め切りの中で時間をどう使うかは我々制作者次第ですが、今回の制作においてはできることは全てやり切ったという状態でした。「このシーンちょっと微妙だけどまあいいか」といった気持ちを片っ端から潰していき、限りある時間の中で最高なものをつくる、それができたと思います。

最後に。

妥協をせずに、全てを出し切る。エレファントストーンの年賀ムービーをつくるという命題に向かって、全力失踪した年末でした。AI生成でサポートいただいたESTのパートナーさん、最高なアニメーションを作って下さった横山さん・坂内さん・西堀さん。そして世界観の軸となった音楽をつくってくださったFrog3の皆さん。そのほかにも様々な人のサポートがあってできた映像だと思っています。皆様本当にありがとうございました!

そして、映像制作の難しさ、そして新しい可能性を感じた制作でもあり、「苦しいな」とか思いながらも「次は何をつくろう?」「どうやったらもっとよくできるだろう?」と考えるネクストレベルの自分に出会うこともできた機会だったと思います。改めてこうして制作を振り返ると、当時の記憶が宿ってきて見返したくなります。皆さんも、ぜひあと10回ほど見てもらえますと大変嬉しく思います。

以上、年賀ムービー制作の裏側、振り返りでした。

この記事を書いた人

深津大貴
エレファントストーンのディレクター

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