HOW TO・TIPS

20年間映像ディレクターとして生き延びてきた私の演出について

20年間映像ディレクターとして生き延びてきた私の演出について

はじめまして。40代ディレクターの高橋雄二と申します。

これまで、20年間テレビ番組やCM・MV・映画・事業会社のインハウスなど、様々なジャンルで映像制作に携わってきました。そんな私が映像制作で一番好きな工程は、撮影現場でのディレクションです。現場はなかなか非日常的な空間で、貴重な経験が積めるからです。好きなことを仕事に出来ていて幸せだなと思う時でもあります。

気付けば20年間映像ディレクターとして活動してきた私なりの現場での演出についてお話しさせていただければと思います。「演出」について語るなど大変おこがましいのですが、ディレクターを目指す方、現在ディレクターとして試行錯誤している方々の何か参考となれば幸いです。

 

何よりも大切なことは人間関係。だからこそ現場ではまず“自分”を演出する

まず、いい映像を作るためには技術や知識、ある程度のお金はもちろん必要ですが、一番大事なことは「人間関係」だと思っています。

役者さんやスタッフとの信頼関係を築き上げることがディレクターとしての役割であり、映像の良し悪しを左右する重要な要素だと考えています。極端かもしれませんが、それが上手く出来ていれば、ほぼディレクターの仕事は完遂しているようなものなのです。

しかし、人間と人間の関係というものはそうそう簡単なことではありません。どうしたって合わない人はいますし、万人に好かれるわけでもありません。まして、映像制作の現場はクセや個性が強い人も多い業界だけに、ロジックや気合いだけの精神論で何とかなるようなものでもなく、案件によっては常に頭をフル回転して挑まなければいけない時もあります。

だからこそ、時には案件がスムーズに進むよう、周りが望むディレクター像を察知し意を決して自分自身を演じる時もあります。自信満々型、一歩引いた型、共感型などなど。例えば、お堅そうな会社にガンガン行ってもそれが良い印象になるかどうか…はわからないですよね。

私自身使い分けられるほど器用ではありませんが、クライアントの特色に合わせたディレクター像を目指し演じるよう心がけています。

では、実際にどのように現場で人間関係を築いていっているのか、私の失敗談も踏まえつつお伝えできればと思います。

 

映像制作で大切なのは現場の「空気感」


(これは現場で自分が使っていたタイマーです)

私が現場で一番大切にするのは「空気感」です。ここで私が考える空気感とは、「どこまで演出するか」です。

一から十まで説明して動いてもらう時もありますが、その役者さんの個性や経験を見極めて、あえて曖昧なリザルト演出に徹する時もあります。(リザルト演出とは曖昧に「もっと優しい感じで」とか「もっとアグレッシブに」とか、極めつけは「もっといい感じで」と雰囲気だけを抽象的に伝えるような演出のことを指し、あまり良くない演出手法と言われています)

 

私の失敗談

私自身のエピソードでお話しすると、以前あまり演技経験が無い方にメイン役をお願いした際に、なかなか上手くいかなかった時があります。このままではマズイなと私も熱が入ってしまい、自分の演技プランの型にはまる様にだけ何度もテイクを重ね、結果役者さんを追い込んでしまった時があります。

「何でそこで表情が変わるのですか?」「何でそこで間を取る必要があるのですか?」とか、演技指導と言えば聞こえは良いのですが、ただ単に自分の考えを一方的に押し付け、その役者さんの演技もきちんと見ようとせずに否定するだけのものでした。

他の役者さんやスタッフの前でそういった指摘ばかりするので、本人の自尊心を傷つけてしまったことと思います。また、終始ギスギス感を与えてしまい「現場の空気感」としては良くないものでしたし、結局は自分よがりの想定内のものしか出来ず、自分の未熟さに大変反省しました。

 

この経験から学んだことは「相手との距離感」

実際の現場ではコンテ上では描ききれていない想定外の出来事が起きたり、どんなに準備して挑んでも上手くいかない時もあったりして、どうしてもギスギスした空気になってしまう(自分自身がしてしまう)こともあります。(誰だってそんなギスギスしたところでは働きたくはないことでしょう)

この経験から、空気感や距離感をとても意識する様になりました。極力テイク数も少なくするようにしています。役者さんは頭の回転が早いので、変に情報を与えすぎると演技イメージが頭でまとまらず混乱させてしまう時もあります。なので、上手くリザルト演出の手法も使いつつ、役者さんの演技幅を広げられればと思っています。

最近では、あえて言葉では言わずに表情とかアイコンタクトで伝える時もあります。(もうちょっとだね)(分かった)みたいな関係で、例えば、私から笑顔を見せれば、もっと笑顔が足りないのだなと思って、次のテイクで見せてくれます。初対面からこんな関係性を作れた場合は、現場がとても気持ちよくスムーズに進みます。

 

役者さんだけではなく現場スタッフへの対応も柔軟に

役者さんだけではなくスタッフの方にも、ある程度曖昧に自由にお任せして動いていてもらい、それに対して話し合って決めていく。その中で、何か、自分が思っている以上の発見や想定を超えてきたアイデアが見えた時、これは「勝ったな」と大抵心の中でニヤニヤしています。同時に相手もそんな顔つきを見せてくるので、その時は何となく信頼関係を築けたような気がしています。

若い時は、何から何まで決めていくのがディレクターだと思い動いていましたが、今では、ディレクターだからといってこちらが一方的にならないようプランをきちんと話し、周りのプロの方々の考えを聞いて、ディスカッションして柔軟な対応を取るようにしています。

 

空気感を作るためのアイデア

他に空気感を作るためにやっていることとして、撮影に入る前に本人の前でコンテ通りに自分も演じて見せる時があります。

これが結構オススメで、企画内容に難色を示して来た時などにはこちらの演出の意図を汲み取っていただけたり、逆に指摘してもらい一緒に考えたりと、撮影前のズレを極力無くすことができます。また、下手な演技を見せることにより、演技に対して気持ち的にハードルを下げてリラックスさせることができるので、その日初めて会ったスタッフにも溶け込みやすい空気を作れる気がしています。

何だか取っ散らかってしまいましたが、現場で何より大切なのは皆がそれぞれの力を最大限に発揮出来るように気持ちのいい雰囲気「=空気感」であり、その空気感を作ることが演出する立場として重要なのだと思っています。これが20年間映像ディレクターを経験してきた私なりの演出です。


(こちらは私がよく読んでいる本です)

 

演出とは “お願い” 稼業である

演出とは、実は「お願いに徹する」プロのお願い屋さんの仕事であり、様々なプロフェショナルな方々の技術と知恵をお借りしているだけなのです。だからこそ、みんなが力を発揮できるような関係構築、空気感を大事にします。

「成功したらみなさんのおかげ。失敗したら、全責任は自分のせい。」

このマインドが大事だと思います。ディレクターとは、お願いしているだけですから。私自身も常に感謝の心だけは忘れずにいようと思っています。

ただ、ゴールに向けて間違った方向に行かないように道標をしっかりすること。例え間違ったとしても不安な素振りを見せず、さも、何もなかったかのように修正してゴールに導いていくこと。これがディレクターとしての役割だと考えています。

どんどん判断していかなければならない仕事なので、優柔不断かなと思う方は、正しいか正しくないかは、一旦置いて「とりあえず決める」ということを意識すれば良いと思います。「自分の意見を通すのも判断」「聞く耳を持つのも判断」、言ってしまえば、判断さえ出来ればディレクターは出来ます!その判断が間違っていたとしても、その積み重ねが経験となっていきます。
途中で諦めなければ20年続けることもできたりしますよ。

あと、とにかく声を大きく出す事。これで、大抵は何とかなります。

 

さいごに

私にとってディレクターは、とても面白くやりがいのある仕事です。頭で描いていたものが形となり、そしてその映像が企業の想いやサービスの価値を届けてくれる役割を果たせた時に、あぁ携われて良かったなと強く思います。

これまで演出について散々分かっている風に書かせていただききましたが、私自身未だにミスはしますし、「間違ったことを言ってしまったな」「もっとこう撮れば良かったな」と、上手くいかず反省する時も多いです。

ただ、一緒に時間を共有してくれる役者さんやスタッフ、関係する方々を自分の行いで悲しい気持ちにさせてはいけないなと強く思う日々の連続です。「信頼」は築くのには時間がかかるけど、崩れるのは一瞬です。(ホントです)

今回は演出について書かせていただきましたが、演出の仕方に正解なんてありません。自分の演出を確立して、個性豊かなディレクターを目指して頑張っていただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事を書いた人

高橋雄二

高橋雄二の書いた記事一覧へ

タグ

RELATED ARTICLES 関連記事