HOW TO・TIPS
映像ディレクター直伝。良い言葉を引き出すためのインタビュー術
こんにちは、エレファントストーンディレクターの嶺です。
映像制作の仕事において最も多い撮影の一つであるインタビュー。しかしインタビューはただ話を聞いて撮影すれば良いというものではなく、準備段階から撮影当日の段取りをどうするか、そしてどう編集するかで全く結果が変わってきてしまう非常に奥深いものです。
今回はインタビューの撮影、その中でも撮影技術ではなく「どうすれば良い言葉を引き出せるか?」に絞って、良いインタビューを撮るためのポイントをお伝えします。
(エレファントストーン社内で行われた社内講習における「インタビュー術」の内容を抜粋してお届けいたします)
そもそも「良いインタビュー」って?
そもそも良いインタビュー映像とは、どんなものでしょうか?私は大きく3つの点を重視しています。
まず最初に、インタビュイー(対象者)が、心から思ったことを話していると視聴者が感じられること。人間は、話し方や表情から本音かどうかを敏感に感じとり、ちょっとでも虚飾を感じると冷めてしまうものです。そしてそうした言葉が人に響くことはありません。
そして2つ目は、インタビュイーだからこその話が引き出せていること。その人だけの経験や体験、あまり世に出ていない新鮮な内容など、インタビュイーの立場やキャリアがあるからこそ語れるエピソードや視点を引き出すことは重要です。
最後は、インタビュイーの人格・キャラクターが出ていること。真面目さ、こだわり、個性など、「こんな人なんだろうな」ということをヒシヒシと感じられる映像には見入ってしまいます。
究極的には、観た人がインタビューや語っている対象に好感を持ってくれるような映像。それが良いインタビュー映像だと思います(報道番組のインタビューだとまた目的が変わってくると思います)。
準備段階:リサーチと情報の整理
準備段階では、インタビュアーとなる人(基本的にはディレクターが努めるかと思います)が、まずインタビュイーについてリサーチを行います。年齢、出身、経てきたキャリア、現在の仕事などの基本的なプロフィールはもちろん、過去のインタビュー記事や出演した映像があればもちろんチェックします。仮に俳優やタレントにインタビューする場合は出演作のチェックをするのは言うまでもありません。
クライアント企業の社員さんやお店の店員さんなど、いわゆる一般の方にインタビューを行う場合は、インタビューを受けること自体が初めての方であるケースも少なくありません。その場合は、インタビュー本番前に一度お会いして、挨拶やコミュニケーションをとっておくと、どんな人なのか掴めますし、本番の緊張も多少軽減されるので、推奨しています(Web会議でも大丈夫です)。
そしてリサーチして人となりを掴む中で、インタビューで話してほしい内容を箇条書きで整理していきます。下記は2023年6月に公開した「川崎フロンターレの過去在籍選手の今に密着する」というコンセプトのシリーズで、ABEMA TVなどでのサッカー解説でおなじみ鄭大世(チョン・テセ)さんのドキュメンタリーです。
この映像では2日間の撮影の中で複数回インタビューを行ったのですが、事前にお話しいただくトークテーマを下記のように整理して臨みました。
最終的な映像の完成形を想像し、どんなラストシーンがいいか…から考えて逆算して必要なトークテーマを整理して、重要度の優先順位づけをしていきます。鄭大世さんのケースで言うと、過去のエピソードを深掘りするのか、今にフォーカスするのかでかなり質問の仕方は変わってきますが、今回は今と未来に重きを置く方針を定めました。
準備段階:ロケーションとシチュエーションの用意
そしてインタビューを撮影する場所をどこにするか(ロケーション)と、どのような状況で話してもらうか(シチュエーション)の準備をしていきます。
まず、話してもらうロケーションは非常に重要です。同じ話をするのでも場所が変われば緊張感が生まれたりリラックスしたり、または話す内容に関連したロケーションであれば話がより立体的にイメージしやすくなります。そして、そのロケーションでどういうシチュエーションをつくり出すかまでを考えなければいけません。
鄭大世さんの映像では、2日間の撮影中に5箇所でインタビューを行いました。
シリアスな話は、鄭大世さんが経営するジムでしっかり照明を入れて陰影をつけて。打ち解けた雰囲気を出したい日常の話はあえて作り込まない感じでカウンターに座りながらや、ご飯を一緒に食べながら。これも、予め「この場所でこの話を聞く」と計算しておいて話題を選んでいきました。特に「ご飯を食べながら話を聞く」というような状況は撮影において自然発生することがありません。そのため、その画を狙うなら予め準備をしてお店の許可も取って撮影に臨まねばなりません。
ここであえて強調したいのはシチュエーションのつくり方です。例えばインタビュー慣れしていない一般の方にインタビューするとき、緊張をいかに解きほぐすかが非常に重要になります。一度でもカメラを向けられたことがあるなら分かると思いますが、人はカメラを向けられると否応なしに緊張してしまっていつもの話し方はできなくなるものです。
緊張を解きほぐす場合、インタビュイーにとって「ホーム」な状況を如何につくるかが重要になります。インタビュイーの職場・自宅・行きつけのお店など、その人にとって身近で親しみがある場所の方が、そうではない場所よりも緊張しません。逆に言えば、初めて行く場所(撮影スタジオなど)は「ホーム」と正反対の「アウェイ」になるため緊張は高まります。
そのほかにも、スタッフがたくさんいたり撮影や照明の機材が大掛かりだったりすると緊張し、スタッフや機材の量が少なければ少ないほど緊張しづらいです。また、身内でも「上司にインタビューを受けるところを見られていると緊張してしまう」というケースはあるため、同席者のコントロールも重要です。
さらに、単独ではなく複数人でインタビューに参加してもらう方が緊張しづらいという傾向もありますが、逆に緊張感が薄れすぎたりそのメンバーの人間関係の影響からあまり芯を食った話が出てこなかったりする場合もあるので注意が必要です。
以上のようなことは、撮影当日ではなく事前に検討して決めておく必要がある大切な準備のプロセスです。
ちなみに下記の映像は私が好きなインタビュー映像で、その人らしさが出るロケーション(背景)が豊かな世界観をつくり出しているだけでなく、一人一人のキャラクターが一瞬で感じとれる好事例です。ぜひご覧になってみてください。
本番:開始前
そして、いざ撮影当日!インタビューはまさしく真剣勝負。インタビュアーとインタビュイーで共に作り上げる創作物です。そして、インタビュアー次第でその結果は全く変わります。
開始前のSTEPその1:収録開始したい15-30分前にインタビュイーをお呼びし、すり合わせやアイスブレイクをする
まずは自己紹介。一対一の人間同士、畏まりすぎず関係性をつくりましょう。腰が低すぎるインタビュアーには、インタビュイーも心を開いてはくれません。即興が苦手な人は、予め雑談ネタ、相手の仕事に関わる時事トピックなどの話題を用意しておくと良いです。
いかに撮影開始前に、心理的な距離を詰めておけるかが重要です!!
開始前のSTEPその2:インタビューの約束事を決める
インタビューにおいて必ずある約束事を事前にしっかりお伝えしておきます。
- インタビュイーはその話題について、どういうスタンスでどんなテンションで話せば良いか(例:インタビュアーが「何も知らない人」という体で、インタビュアーに解説するような気持ちでお願いしますと言うなど)
- 収録の進行方法(一気に話してもらうのか、質問ごとに一度切るのか、インタビュアーがちょこちょこ合いの手を入れるのか)
- 必ず言ってほしい単語や主語があればお伝えする
- カメラに対しての目線を送る位置の確認
ただ、あまり細かく条件を伝えすぎるとかえって混乱したり緊張してしまうこともありますので、そこはインタビュイーの様子を観ながら判断する必要があります。
本番:質問の流れ
そして、インタビュー撮影がスタートします。
心得1:必ず「本題」の2つか3つ前のステップとなる質問から始める
これは鉄則ですが、本当に聞きたい「本題」から、逆算して2つ〜3つほどステップを戻ったところから質問を始めてください。間違っても最初に聞きたいことをいきなり聞いてはいけません。インタビューが始まってすぐは、インタビュイーも緊張が解けておらずうまく話せないものです。
例えば以前私が担当した別のインタビューでは、本題である「今の会社に転職した理由」を聞くために下記のステップで質問を重ねました。
- 今の担当業務について教えてください
- 仕事を通して心がけていることは何ですか?
- やりがいはどういう点にありますか?
- ところで、なぜ転職をされたのですか?(本題)
最初はあまり迷わずに答えやすい問いから始めるのがコツです。
心得2:用意した質問だけで終わらず、追い質問で深掘りする
用意した質問だけでは用意した答えしか返ってこず、盛り上がらないこともあります。インタビュアー(ディレクター)は、いち視聴者や読者の立場を代弁して、疑問があれば聞き、質問をどんどん追加して深掘りしていきましょう。予め決めていなかった追加質問の際に、本音を滲ませた良い回答が出てくることも少なくないです。
そして、その深堀質問をする際は、興味・関心・好奇心といったインタビュアー自身の感情をしっかり滲み出させることが重要です。インタビュイーが「この人(インタビュアー)は本当に興味を持って聞いてくれているんだ」と感じられれば、誠心誠意答えてくれる可能性は高まります。もちろん大前提として、事前リサーチなどでしっかりインタビュイーについてのインプットをしておかないと、良い追加質問はできないものです。
追加質問の例
- 「今の話をもっと詳しく教えてもらえますか?」
- 「それってこういうことですか?」(自分の見解も交えて投げる)
心得3:脱線を恐れない!話したいことを話してもらいながら、流れを止めずに導く
インタビューをしていると、しばしば話が脱線することがあります。ですが脱線は、活き活きした面白い話題のトリガーでもあります。脱線には、そのインタビュイーのキャラクター性や本当に話したい話題が詰まっていると言ってもいいでしょう。
鄭大世さんの映像でこの脱線にあたるのは、後半の韓国料理屋さんでのシーンです。最終的に編集でかなり削ったのですが、以下の映像の場面、実は撮影時にまさに「脱線」をしていました。本題である鄭大世さん自身のお話から離れて、今のJリーグや代表について雑談的にいろいろ話している最中に鄭大世さんが語ってくれた話が、2日間の撮影を通して最も感動した言葉となりました。
ただ、脱線しすぎて本筋に戻らなくなっていたずらに時間が経過してしまう…ということにも注意しなければいけません。
話の方向性がずれすぎていて戻したい場合は、一旦その脱線話を話し終えてもらった後に、否定形ではなく「なるほど」「面白いですね」などのリアクションをし、例えば「視点を変えて○○な感じだとどうですか?」というように本筋に戻していく。そうすればテンションが途切れないまま本題へと繋げていけるでしょう(とはいえ結構難しいコントロールにはなります)。
本番:その他のポイント
その他、インタビュー撮影時に気を付けると良いポイントをお伝えしていきます。
「話してほしい言葉」を言いやすい質問の仕方をする
- YES/NOで終わらない質問をする
- 言ってほしい単語・固有名詞をちゃんと伝える
- 誘導する。(例)「この会社をズバリ一言で言うと? 例えば凄く熱い人の集まりだとかそういう感じです」
恐れず、お願いして言い直してもらう
主語や固有名詞の言い忘れがあったり、言い淀みなどが発生したりした際に、言い直してもらわないと重要なお話なのに最終的に編集で使えない状態になってしまうことがあります。
そんな時は心を鬼にして、作品のために、なによりインタビュイーのために、恐れずその場で止めて「今のところもう一度言っていただいていいですか?」とお願いしましょう。
あなたらしいリアクションをする
先ほども書いた通り、インタビューはインタビュアーとインタビュイーの対等な人間関係の切り結びです。カメラこそ向いていませんが、インタビュアーの人間性も、映像には映り込んでくると考えてください。
うなずく、驚くといったリアクションは大切ですが、やりすぎても嘘くさくなります。あくまでインタビュアーの心から本当に出たリアクションを、少し分かりやすくするくらいの気持ちで行い、インタビュイーに気持ちよく話してもらいましょう。
まとめ
ここまでご説明したように、インタビューと一言で言っても非常に多くのことを意識しながら準備して撮影に臨まなければなりませんし、逆にインタビュアー(あなた)自身の人間性も問われるような、ある種怖いものでもあります。
だからこそ濃密な対話を行えて、インタビュイーの魅力や良いエピソードが引き出せた時の充実感は代え難いものです。ぜひ、トライしてみてください(今回は撮影編でしたが、気が向いたら編集編も記事化してみたいと思います)。
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