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【検証】iPhoneはプロの動画撮影に使えるか?

【検証】iPhoneはプロの動画撮影に使えるか?

こんにちは、エレファントストーン ディレクターの嶺です。

自分は旅行の時などにiPhoneで動画撮影することも多いのですが、最近「iPhoneは仕事でも使えるんじゃないか」と考えるようになってきました。

皆さんも「iPhoneで撮影」と書かれたアップルの写真広告をJR駅のホームで見たことがないでしょうか。看板広告というプロの撮影の代表例みたいな使い方で用いることで、「iPhoneでプロみたいに綺麗に撮れるんだよ!」とPRしているわけです。

では、本当にiPhoneは「プロの動画撮影」で使うことができるのでしょうか?

最初に結論から言うと、YESでもあり、NOでもある、です。

iPhoneで撮ってみました。

まずはこちらの動画をご覧ください。

エレファントストーンは今年研修旅行でバンコクに行ったのですが、その際にiPhone Xで旅行を撮影しており、その一部を簡単にまとめたものです。

タイ研修旅行2019

如何でしょうか?もちろん「映像がすごいキレイ!」な訳では無いと思います。ただ、「躍動感があって楽しそうな旅の記録」というオーダーのお仕事だとしたら、それなりに成立している気がします。

またもう一つの映像をご覧ください。

10月の台風19号で冠水の被害を受けた福島県いわき市に、以前撮影でお世話になった縁もあり個人的にボランティアに行ってきたのですが、その際ボランティアの実情を広く知ってもらうために撮影した動画です。こちらも全てiPhone Xにて撮影しています(音声含む)。

台風被災地でのボランティア作業はどんな感じ?

SNSでの拡散を前提としたため、スマートフォンを縦でも横でも見やすい1:1の正方形サイズで制作しています。これ、WEBニュースとしてなら十分成立していませんか?

という風に、お客様のオーダー次第では、iPhoneも充分「プロの動画撮影」のお仕事として使えると言えるのです。

iPhone動画の欠点

ただ、やはり「プロの動画撮影」という観点でいうと、iPhone(スマートフォン)には絶対に越えられない大きな壁、プロが仕事で使うカメラとの相違点があります。

その最大の違いは「センサーサイズが小さい」ということです。

どんなカメラでも構造は基本的に同じで、レンズを通して取り込まれた光が「センサー(撮像素子)」と呼ばれる平面の機構に投影されることで、デジタルデータに変換され映像となります。このセンサーは、昔のフィルムカメラにおけるフィルムに該当します。このセンサーの大きさはカメラの性能や金額に大きく影響します。

写真撮影のスタンダードとされる「35mmフルサイズセンサー」(35mmフィルムと同じ大きさ)とiPhone Xで採用されている「1/3型センサー」の大きさを比べると、

このように表面積において50倍の差があります。

これはiPhone Xの「1/3型センサー」は「35mmフルサイズセンサー」に比べて、光を受け取る面積が1/50だということです。つまりカメラが受け取る光の総量が、プロのカメラに比べてiPhoneは圧倒的に少ないんです。それで何が起こるかというと、光量はイコール情報量でもあるため、同じ4Kで撮影したとしても、比べると小さい「1/3型センサー」のiPhone Xは映像がボヤけて荒くなってしまうのです。

試しに同じ風景で撮り比べてみました。

iPhoneX vs 「35mmフルサイズセンサー」カメラ(SONY α7sⅡ) 4K撮影比較

一見、大きな違いは感じないかもしれません。

ただクローズアップしてよく見てみると、iPhone Xの映像は看板の文字が滲んで読めなくなっていたり、やや荒れているのが分かると思います。

この2つの映像は、共に4K(3840×2160px)で撮影しています。


さらに、暗いところで撮影すると光量が足りなくてノイズが発生しやすくなるんです。

タイ研修旅行ムービーより抜粋。
夜に撮影したシーンなどでは、明らかにノイズが発生して映像が荒れていることが分かります。

ただし日中の野外など、充分な光量のある場所で撮影したシーンでは暗部にもノイズは発生していません。

センサーの大きさだけがノイズの発生要因では無いし、ノイズ処理の技術はどんどん向上しているので一概に比較はできませんが、基本的な原理としてはそういうことです。

ただ、上記のような映像の滲みやノイズは、スマートフォン上で視聴すると画面が小さいためそこまで気にならないということも一面の真実です。SNS投稿用などの場合は、充分iPhone撮影も選択肢に入ってくると思います。

被写界深度

またセンサーサイズが小さいことで「背景をボカした映像が撮れない」ということもデメリットです。原理の説明は省きますが、これを「被写界深度が深い」状態と言います。

被写界深度(フォーカスが合う範囲)が深い、つまり手前から奥までフォーカスが合っているのが、いわゆるスマホ動画の特徴です。ニュースやバラエティなどのテレビ番組も同じ系統と言えます。

また一例ですが、アカデミー賞監督スティーブン・ソダーバーグが全てiPhoneで撮影した映画の予告編をご覧ください

UNSANE | Official Trailer

よく観ていただくと、手前の人物から奥の背景まで、常にフォーカスが合っていることが分かると思います。これが「被写界深度が深い」です。

映画やTVCM、ミュージックビデオなど、一般に「映画っぽい」とか「雰囲気がある」と言われるようなカッコイイ映像、作り込まれた映像では被写界深度が浅い(フォーカスが合う範囲が狭く、背景がボケたりしている)撮り方をされることが多いので、上記の映画の例は例外的と言えるでしょう。もちろん「被写界深度が深い」状態も、パンフォーカスという立派な表現手法であり、結局は何を表現したいかに基づいて個別に手法を選択していくのが正しいということです。

ちなみに私見ですが、上記ソダーバーグの『UNSAME』というホラー映画は、iPhone撮影にすることで、より主人公の主観に寄り添った不安感や恐怖を表現しているのだと思います。

iPhoneのカメラはいつかプロのカメラに追いつくの?

このセンサーサイズが小さいことに由来するiPhoneの動画特性は、基本的には今後技術が進んでも大きくは変わらないと考えられます。

iPhoneを始め各メーカーが高性能化を進め、4Kをスマホで撮れることはもはや当たり前になっていますが、センサーサイズが小さいことは「4Kかどうか」、つまり解像度と呼ばれるピクセルの数が多いか少ないかの尺度とは少し異なる次元の話です。

逆に、センサーサイズが小さいことのメリットもあります。センサーが小さいと情報量が少なくて済むためiPhone内の画像処理エンジンの負荷が少なく、その分画質以外の他の事にエネルギーを使えるのです。具体的には10倍スローモーション(ハイスピード撮影)をしたり、カメラアプリ「SNOW」に代表されるようなリアルタイム映像加工処理を行えるのも、センサーサイズが小さいからこそできるのです。

コンビニご飯とレストランの食事

例えると、iPhoneはコンビニご飯で、プロのカメラはレストランでの食事なんだと思います。

コンビニご飯(iPhone)は安くて便利で手軽に持ち歩けて、どんどん新製品が出て、大衆のニーズを常に満たしてくれる存在。

レストランでの食事(プロのカメラ)は、その時の気分や用途で毎回お店を選び、高級料理を食べたいとか、珍しい料理が食べたいとか、老舗が良いとか、時と場合で使い分けて最善の結果を追い求めるもの。

iPhoneやスマートフォンの動画は、どんどん性能は進化していくし、アプリ次第で普通のカメラではできない面白い表現がたくさん出来るので、撮影するときの選択肢に含めてみると新しい発見があるものです。

エレファントストーンは美味しい食事を出すレストランのつもりですが、これからの時代はコンビニご飯を買う臨機応変さもどこかで必要になってくるのかもしれません。全ては使いようということです。

この記事を書いた人

嶺隼樹
エレファントストーンのディレクター / マネージャー Twitter:@junkimine

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