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小津安二郎の映画にみる“色彩美”

小津安二郎の映画にみる“色彩美”

前回小津安二郎の映画にみる”高さの構築美”を紹介しました。しかしながら当然、小津のこだわりはそればかりではありません。今回は”色彩の美”について解説します。

小津安二郎の映画ははじめの頃は白黒でしたが、1958年の『彼岸花』以降はカラー作品となりました。

アグファカラー

小津が好んだのが、ドイツ製フィルムであるアグファカラーです。このフィルムは赤色の再現度が高い一方で、青色はそこまででないという特性がありました。

一口に白黒からカラーフィルムになったとはいえ、当時のカラーフィルムはまだ、「実物」をそのまま切り取ってビビッドな発色をするのは難しかったのです。そのために各国でいろんなやり方が模索され、イギリスのテクニカラー、イタリアのフェラニアカラーなどが登場しました。

特にアグファカラーは「発色式」と呼ばれる方式で、赤、青、黄のカラーに応じたフィルムを作る必要がありました。現像作業も3回必要でした。そのため作業コストが大幅にかかりましたが、小津は赤色の再現にこだわりアグファカラーを選択したといいます。

彩度の高い一点ものを画面に必ず配置

小津映画で着目してほしいポイントがあります。登場人物の衣装や背景が彩度を抑えた“渋い”発色のシーンでも、必ず高彩度や高明度の目を引くアイテムを置いているところです。

『彼岸花』の予告編をケースにしてみてみましょう。

59秒のシーン~

おしぼりだけが明瞭な黄色をしています。こちらをカラーピッカーで拾ってみたところ

R227、G189、B125
PCCSでいうとsf6~sf8ぐらいとなっています。

PCCSって何?という方は以下の表をご覧ください。

右に行くほど彩度が高くビビッドな色となり、上に行くほど明度が高く明るい色となります。

真ん中あたりにあるsoftが今回該当の色となります。

sf6~sf8あたりの色味がわかるでしょうか? 実際におしぼりの色もそのあたりに見えます。

また、1分51秒のシーン、右端の缶がビビッドな黄色をしています。このようにビビッドな黄色は赤ほどではありませんがよく使われています。

1分35秒のシーン~

続いて、1分35秒のシーン。小津が好きな赤が散りばめられたシーンです。テーブルクロス、無造作に置かれたマフラー、ビールの段ボールに記載のあるAという文字まで……。

R138、G41、B24
あまりPCCSで当てはまる色はありませんが、無理やりいえばdk4ぐらいでしょうか。

1分54秒のシーン~

右端に置かれているビンがエメラルドグリーンのような液体で満たされています。

R28、G59、B36
こちらはPCCSでいうとdkg12ぐらいでしょうか。

こう思う読者もいるでしょう。アクセントカラーとはいうが、全体的にPCCSでいうとビビッドトーンやストロングトーンのような高彩度領域ではないのではないか? と。

当時はカラーが再現できるようになったといっても、今のように鮮やかな色味は再現できなかったのです。古い写真を見ると何か「昔」を感じるのはその色味にあります。その中で中彩度領域である”sf”や”dk”の鮮やかさを再現できているだけでも、すごいことなのです。

こうした小物で目を引くというやり方は現代の映像世界では一般的になりましたが、その原点といえるかもしれません。

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この記事を書いた人

ZOOREL編集部/黄鳥木竜
慶應義塾大学経済学部、東京大学大学院情報学環教育部で学ぶ。複数のサイトを運営しZOORELでも編集及び寄稿。引きこもりに対して「開けこもり」を自称。毎日、知的好奇心をくすぐる何かを求めて街を徘徊するも現在は自粛中。

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