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映像の中の多彩な色の世界
エレファントストーン、ディレクターの奥野です。
昨今、低価格帯のシネマカメラが登場したり、動画機能やフォーマットが充実した一眼レフタイプのカメラが普及したり、カメラ毎の色味の違いやポストプロダクションでの色の調整の幅が本当に多彩になっています。
「色が印象的だな」「青の使い方が素敵」などと感じる場面がすっごく増えたのではないでしょうか。映画好きな方の中には「北野ブルー」なんて言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。
今回は、色味の印象的な映像の紹介とそれについての簡単な分析を行なっていきたいと思います。
「her」スパイク・ジョーンズ監督
アメリカの西海岸の日差しが想起されるような淡い暖色系の色合いが特徴の映画「her」。
人工知能と人間の恋を描いている内容で、少し未来的、少し先の想像の世界での出来事を感じさせるような、まるで「白昼夢」のなかにいるような雰囲気を、暖色系の色合いで全体のトーンを作ることで成立させていると個人的に考えています。これが多分キレキレの寒色系の色合いの場合少しシリアスな印象が過ぎてしまいますよね。
映画内でシリアスで繊細な出来事が起きていても、情景の色がサーモンピンクに近い世界観だと少し、「寂しさ」の属性や質も変わってくると思います。
上記映像で「her」のグレーディングについて解説していますので興味のある方は見てみてください。
「Moonlight」バリー・ジェンキンス監督
今おそらく最も期待を寄せられているプロダクションA24製作の映画「Moonlight」は、青空と海の色を溶かしたような水色が印象的な映画。この作品のポストプロダクションでは、2つの試みがあったと言われています。
1つは、全体を通してデジタル映像にフィルムの質感を加えるべく、ソフト上でフィルムルックの変換をかけているという点です。ストーリーの中で描かれる主人公の3つの時代=幼少期/少年期/青年期に合わせて、変換をかけるフィルムのタイプを使い分けているようです。幼少期はFUJIFILM、少年期はAGFA、青年期はKODAKといった形で、各時代とストーリーに一番合うフィルムの質感を選定し、色味を出しています。
2つ目は、一番印象深いブルーの表現です。黒人男性の肌は透明感のある明るいイメージに感じられます。担当カラリストによると、これは人物のコントラストをかなり上げ、人物のシャドウ部とハイライト部に、元々オリジナルで計算されたブルーの色味(少し緑がかったシアン)を加えているそうです。この色味は数々の本作のレビューを見ると分かるように、映画全体のストーリーの印象にとても大きく寄与していますよね。
「Seven」デヴィッド・フィンチャー監督
言わずと知れたサスペンスの名作と言われる「Seven」。見たことがある人はおそらく暗いイメージがまず印象に残っているのではないでしょうか。デヴィッド・フィンチャーが「Seven」で意図したイメージは、恐怖心や粗雑さ、現実味を帯びたものであると語られています。
実は撮影直後の現像の段階(ポストプロダクション)で、監督のこのイメージを出すべく工夫が施されているのですが、それが「銀残し※」というフィルムの現像方法です。この方法で、暗部を徹底的に暗くし、陰影の強い映像に仕上げています。
※銀残しとは、本来取り除くべき銀の処理をあえて省くことによって、フィルムや印画紙に銀を残すこと。
おそらく見れば分かると思うのですが、黒(シャドウ部)が本当に真っ黒ですよね。人物が座るソファーにできるその人物の影を見ると、真っ黒でもはや同化している様な感じもあります。この工夫がストーリーの中で出てくる顔の見えないサイコキラーが闇の中に潜んでいる=黒に人物が溶け込んでいる印象をより助長していたり、人物のシリアスさ、張り詰めた空気を醸成していたりすると言えます。制作する側からすると、思い切った表現です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。僕は改めて映画を見直してみて、ディレクターとスタッフが最後のアウトプット、ビジュアル面でしっかりと意図を明確にもって1つの映像を作り上げている印象を受け、素敵だなと思いました。
細部にまでこだわり、観客とのビジュアルコミュニケーションを突き詰めることの面白さも感じます。よろしければ、これから映画や映像を見る際には、こうした各部分の色味に注目してみてください。何か面白い発見があるかもしれません。
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